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大人でも意外と気になる頭の形。髪の毛が生えそろっていない子どもでは、なおさらですよね。「あれ? ウチの子、頭の形がゆがんでる?」「あの子がつけてるヘルメット、ウチの子もつけて治療した方がいいのかな?」と気になった時がチャンスかもしれません。受診の目安やヘルメット治療の実際などを詳しく解説します。
最も多いのは「向き癖」による頭のゆがみ
赤ちゃんの頭を上から見た時に右側だけペタンコになっているなど、左右のゆがみが見られることがあります。
こうしたゆがみの原因のほとんどは「位置的頭蓋(とうがい)変形」、いわゆる「向き癖」によるものです。たとえば保護者が赤ちゃんを横抱きする時、赤ちゃんの頭を左にする抱っこを繰り返していると、赤ちゃんは右向きの癖がつきやすいと言われています。赤ちゃんにとっては、右を向くと保護者がいて、安心できるからです。
そのうち赤ちゃんの頭の右側だけ平坦(へいたん)になるような左右差が生じます。生後1カ月の時点ですでに約8%の赤ちゃんが、左右どちらかを好んで向くことも報告されています。
ちなみに、あおむけ寝による後頭部の絶壁、また右向きのあおむけを好むことによる右後頭部の平坦化なども、よく見られる変形の一つです。乳幼児突然死症候群(SIDS)を避ける意味では、うつぶせ寝ではなく、あおむけ寝が安全であることは言うまでもないのですが、あおむけ寝が推奨され始めてから頭の変形の報告が増えたという調査もあります。
もちろん、向き癖以外にもさまざまな原因があります。
生まれる前の原因としては、初産や1人目の子どもであること(子宮が広がりにくいので頭が圧迫されやすい)、双子などの多胎児であること(相対的に子宮が狭く、頭が圧迫されやすい)、長時間の難産であること――などがあります。
また、早産で生まれること(NICU=新生児集中治療室=入室中の治療都合による、腹ばい姿勢からの縦長かつ横扁平=へんぺい=の変形)や吸引・鉗子分娩(かんしぶんべん)、赤ちゃんに筋性斜頸(しゃけい)という病気があること(首の筋肉ガ硬いため頭の動きが制限されること)なども変形に影響します。
中でも、頭蓋縫合早期癒合症は見逃したくない疾患です。頭蓋骨はさまざまな骨がパズルのように合わさってできていますが、その骨のつなぎ目が通常よりも早くくっついてしまうことで、頭の変形を引き起こすものです。脳の発達を促すために、頭蓋骨を切るなどの大きな手術が必要になります。
頭のゆがみは、斜視や片頭痛にも影響する
何らかの原因で頭に変形をきたすお子さんは、生後6〜7カ月で47%にも上るという報告があります。「左右が完全に対称な人間なんていないし、そのうち髪の毛が生えれば気にならないだろう」「健診でも『様子を見て大丈夫、そのうち治るから』と言われたから、大丈夫かな」などと思いがちですが、頭のゆがみは全身に影響を及ぼします。
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たとえば顔面の見た目の左右差のみならず、斜視や視覚障害、眼球運動障害、また歯並びにも影響し、片頭痛や、脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)といった腰の症状も引き起こしやすくなります。一部の研究では、神経や運動の発達に影響があるとされていますが、多くは2歳ぐらいまでしかフォローされておらず、その後の長期的発達への影響に触れている研究はほとんどありません。9歳までフォローされた研究では、頭蓋変形があるからといって知能指数が低くなるという相関は無いとされています。
たかが頭のゆがみ、されど頭のゆがみ。程度の個人差はあっても、頭の変形が全身に影響を及ぼしうることがお分かりいただけると思います。
ホームケアが期待できるのは生後1カ月まで?
「向き癖」と聞くと、自宅でも簡単に治せるものと思う方は少なくないでしょう。確かに、ちょっとした工夫で頭の形をよくすることはできますが、それには条件があります。ホームケアで向き癖や頭の形を修正できるのは、生後1〜2カ月ぐらいまでの短い期間に限られるのです。
というのも、生後2カ月を過ぎてくると神経発達が著しく、多彩な動きをするようになるからです。多くは寝返りを打てないといっても、あおむけのまま、頭を含めた全身をよく動かしています。つまり生後2〜3カ月以後は、「右向きの癖があるから左を向かせたい」と思っても、左を向いて止まってくれる時間が短くなり、十分な矯正効果が得られなくなるのです。
生後1〜2カ月ごろまでであれば、赤ちゃんが寝ている間に左右の首の向きを変えたり、おもちゃを置く場所(赤ちゃんが向く方向)を左右で入れ替えたり、といった対策が効果的です。またベビーベッドの右にカーテンがあると、差し込む光に反応して常に右を向きがちになるため、赤ちゃんの左側にカーテンがくるようにしたり、ベビーベッドの位置自体を変えてしまったりするのも手です。
特に推奨されているのは、「うつぶせタイム」(タミータイム:tummy time)。保護者などが見守っている安全な環境で赤ちゃんをうつぶせにしてあげる時間のことで、要は積極的にうつぶせにしてあげることで、変形を防ぐ試みですね。あおむけに比べると、うつぶせは頭の形に影響が出にくいとされているからです。
加えて「うつぶせタイム」はSIDSの予防対策としても推奨されています。うつぶせに慣れていない赤ちゃんが寝ている間に何らかのきっかけでうつぶせになってしまうことがSIDSの引き金の一つになるため、起きている間に少しでもうつぶせに慣らしておくのが有効になってきます。
なお、頭の形をどうにかしたいと思った時、真ん中が空洞になっているドーナツ枕を検討するご家庭も少なくありません。ただしドーナツ枕が、頭の形のゆがみを治すのに有効であるという医学的かつ明確なエビデンスは存在しません。また、枕はSIDSや窒息など、安全面からも推奨できません。
ちなみに「うつぶせタイム」は産後すぐの新生児期から推奨されており、1日2〜3回、3〜5分間ほどから始めて少しずつ延ばしていくのが理想的です。生後1カ月では1日当たり合計で30〜60分ほど取れるとよいでしょう。
生後2カ月以後は積極的にセカンドオピニオンを
ただ、前述したようなホームケアで効果が期待できるのは生後2カ月ごろまで。2カ月を過ぎたら、本当に治療や矯正が必要な変形レベルかどうか、他に骨の病気が隠れていないかなどを積極的に見極めていく必要があります。
見極めるポイントとしては一つに、動くものを目で追う「追視」(ついし)があります。生後2カ月ごろから見られる反応で、追視する際に右の方にはあまり頭を動かさず、目だけで右の方を向く様子がある場合は、右向きの向き癖が強くなります。その結果、頭の右側がゆがんで平坦になってしまい、矯正する必要があるかもしれません。逆に多少の向き癖や変形があっても、頭をしっかり左右に動かしながら、ものを見ることができていれば、矯正しなくてもよいレベルが予想されます。
また耳の位置によって、ゆがみの重症度を予測する方法もあります。
赤ちゃんの後ろ側を手前に、頭を真上から見た時に左右対称であれば、図の通り、左右の耳はまっすぐ横向きの直線上に並んでいます。しかし右の向き癖が強く、右に平坦なゆがみがある場合は、右耳の方が顔の前方に出るような左右差が見られます。左右の耳を結ぶ線がまっすぐ横向きではなく、右斜め上向きの線になります。左右の耳の位置のズレが大きいほど、頭蓋骨も左右差が大きくゆがんでいることが予測できます。
ただし自宅での判断は難しいため、ぜひ乳幼児健診などの際、医師に相談をしてください。子どもの頭蓋矯正については医師の間でもまだ認知が広まっておらず、最新の正しい知識がない医師もいます。医師から「そのうち治るよ」「家で向き癖をどうにかしてみて」と言われても、別の医師に意見を聞いてみるなど、積極的にセカンドオピニオンを取ることをお勧めします。無料で相談できるページも活用してください。
ヘルメット治療は生後4カ月までがカギ
繰り返しになりますが、自宅で自然に向き癖を治せるのは生後1〜2カ月ごろまでになります。その後も耳の位置が左右で違うといった症状が続く場合は頭蓋矯正ヘルメット、いわゆるヘルメット治療に進むのが理想です。
頭のゆがみがどれぐらい重症なのか、またヘルメット治療の適応になるのかどうかの判断は、生後2~3カ月の間にできたらよいでしょう。ヘルメットができるまでには2週間程度かかるというタイムラグも考慮して、生後4カ月までにヘルメット治療を開始できると最も矯正効果が高くなるとされています。頭の骨は月齢が低いほど柔軟だからです。
よって、生後6カ月までに装着すれば効果は見込めますが、さすがに9カ月以後となると効果は明らかに低下します。その上、生後7〜9カ月以後は、赤ちゃんが自分でヘルメットを取り外すリスクも生じてしまいます。
なお、ヘルメット治療で多い誤解が「出っ張っている部分を無理矢理ヘルメットでへこませる」とか「強制的に頭を変形させる」といったもの。正しくは、変形によって平らになってしまった部分に変な圧がかからないよう、ヘルメットで余白を作ってあげて、平らになってしまった骨の成長を促進する――というものです。
「1日23時間」を半年間続けること
最後に、頭蓋矯正ヘルメットの治療の実際について触れます。
お子さんの頭の形が気になった親御さんは、乳幼児健診や小児科でのワクチン接種時に医師に相談することが多いと思います。一般には、その医師が、頭蓋変形を専門で診ている病院に紹介状を書いてくれます。インターネットで「頭の形外来」などと検索すると、お近くの医療機関が分かりますので、ご希望の病院を医師に伝えてください。
もちろん紹介状があっても、ヘルメット治療に進むとは限りません。後頭部の絶壁だけで左右差がない場合や左右差が非常に軽い場合だとヘルメット治療の対象外と言われることもあります。このあたりは診察のほか、頭蓋骨を細かく評価する専門の画像検査などで判断していきます。
実際にヘルメット治療が始まると、お風呂に入る時を除き、1日23時間は装着することが原則です。定期的な通院をしながら、およそ6カ月間、装着を続けると効果的です。矯正された骨が元に戻ってしまうこともまず無い、とされています。
費用については歯の矯正治療と同様、保険診療外で、基本的には数十万円の自己負担となりますが、まれに骨の病気と診断された場合などは保険適用されるケースがあります。
またヘルメット治療で最も多いトラブルは、肌荒れです。ただでさえ汗をかきやすい赤ちゃんにヘルメットを装着するので、どうしても汗疹ができやすくなります。親御さんが気を付けてあげるとよいですね。
今回は赤ちゃんの頭のゆがみと、その治療法についてお伝えしました。「様子を見て」と言われても、気になる場合は生後2〜3カ月など早い段階での受診・相談をお勧めします。
<参考文献>
・日本頭蓋健診治療研究会「小児の頭蓋健診・治療ハンドブック 赤ちゃんの頭のかたちの診かた」メディカ出版,2022年
・阪下和美「正常ですで終わらせない!子どものヘルス・スーパービジョン」東京医学社,2017年
写真はゲッティ
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白井沙良子
小児科医/小児科オンライン所属医師
しらい・さよこ 小児科専門医。「小児科オンライン」所属医師。IPHI妊婦と子どもの睡眠コンサルタント(IPHI=International Parenting & Health Insutitute、育児に関するさまざまな資格を認定する米国の民間機関)。慶応大学医学部卒。東京都内のクリニックで感染症やアレルギーの外来診療をはじめ、乳幼児健診や予防接種を担当。2児の母としての経験を生かし、育児相談にも携わる。***小児科オンラインは、オンラインで小児科医に相談ができる事業です。姉妹サービスの「産婦人科オンライン」とともに、自治体や企業への導入を進めています。イオンの子育てアプリより無料で利用できます。詳細はこちら。
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