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毎日新聞 2022/12/17 東京朝刊 有料記事 1021文字
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ジャベリン、スティンガー、ネプチューン、ハープーン……。夏ごろ、ウクライナ戦争で「活躍」する兵器の名前を訳知りに語るにわか軍事オタクがずいぶんいたものだが、冬を迎えてめっきり見かけなくなった。一方、軍事専門家や国際政治学者は、口をそろえて戦争の長期化を淡々と説く。
6月、別のコラムに「ゼレンスキー氏(ウクライナ大統領)は英雄か」という見出しで、ロシアが200%悪いにしても、ウクライナは100%正しいか、と疑問を呈したら、読者から頂いた手紙は賛否半々だった。応答のつもりで7月、「記者の目」に同じ見出しで再論したところ、今度は明確な異論は1通だけだった。
侵攻される1年前から、ゼレンスキー氏が「クリミア奪還」「ロシアの武力侵攻に対抗」「ミンスク合意Ⅱ(ウクライナ東部紛争の和平合意)完全破棄」と繰り返し表明していた強硬姿勢は、今やよく知られている。米国流の自由と民主主義の価値観を絶対視するバイデン氏(現大統領)らが、数年越しでテコ入れしてきた背景も明らかになっている。
米欧側がその意図を否定しても、ロシアのプーチン大統領は挑発されていると感じていただろう。さらにバイデン政権の異常な軍事支援を見れば、これがウクライナに戦場と死者を押しつけた米国の「代理戦争」である実態は、否定する方が難しい。
日本の防衛費大幅増は、中国・台湾を近い将来のロシア・ウクライナに見立てた政策の大転換だ。いや、買わされる兵器と地理的条件を見れば、日本も米国にとっては「東アジアのウクライナ」にならないと誰が言い切れよう。
岸田文雄首相は初めて北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席し、防衛費はNATO並みのGDP比2%を掲げ、英国・イタリアと次期戦闘機共同開発で合意した。NATO準加盟国気取りで来年の主要7カ国(G7)議長国を務めることが、最優先の政治目標らしい。価値観外交の図式にはまりすぎて、逆に危うい。
ある大使経験者がつぶやいた。「一番重要なのはロシアを中国の側に押しやらないこと。それには議長国・日本が、ウクライナ即時停戦を主導するくらいの大胆さが必要だ。クリミア・南クリル諸島(北方四島)交換案とかね」
歴史的にロシア領のクリミアはロシアに譲る。交換でウクライナに北方四島を渡す。日本は戦後復興資金を出し、四島を引き取る。きっと防衛費増額分より安い。
「荒唐無稽(むけい)と笑わば笑え。米国は仰天するよ」(専門編集委員)