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毎日新聞 2023/1/31 東京朝刊 有料記事 1195文字
文鮮明氏の発言録「文鮮明先生マルスム(御言)選集」の一部。「一昨年の選挙当時に日本のカネで60億円以上使った」などと記されている(画像の一部を加工しています)
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の創始者・文鮮明(ムンソンミョン)氏が信者に説教した約53年分の内容を韓国語で収めた発言録全615巻で、日本の歴代首相への言及が計1330回あり、このうち最も多かったのは中曽根康弘氏で、次に多かったのは岸信介氏だった。毎日新聞が全巻約20万ページに及ぶ文書を調べ、独自に集計した。
自民党と旧統一教会の関係を巡っては、2022年7月の安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに注目度が高まり、自民党は23年4月の統一地方選に向けて教団との「関係断絶」を打ち出す事態に追い込まれた。しかし、関係が深いとされる安倍氏に関する調査などは行われず、教団とつながってきた歴史にはなお多くの謎がある。
こうした中、文氏が1989年に行った説教で、安倍晋太郎元外相を会長(当時)とする「安倍派」(清和会)を中心に国会議員との関係強化を図るよう語っていたことが、発言録の翻訳で既に判明している。そして今回の集計で、文氏が日本政界に近づく足掛かりにした安倍氏の祖父・岸氏や父・晋太郎氏のほかに、中曽根氏を政界工作の重要なターゲットにしていた姿が浮き彫りになった。
発言録は、文氏が56~2009年に韓国内で信者に説教した言葉を韓国語で収録した「文鮮明先生マルスム(御言(みこと))選集」。全615巻あり、各巻は約300~400ページに及ぶ。文氏が死去した12年まで発行されたが、絶版で入手は困難となっている。
そこで毎日新聞は、日本の教団本部が「不法転載されている」と指摘するウェブサイトで、合計約20万ページの文書を調査した。文書は「PDF」のファイル形式で保存されたもので、PDFを開発した米アドビ社のソフト「アドビ・アクロバット」の高度な検索機能を使用。政治家の名字をそれぞれ韓国語で入力し、抽出された文章を記者が確認、前後の文脈などから判断した。
対象とした政治家は、教団が韓国で設立された1954年当時に首相だった吉田茂氏から現職の岸田文雄氏までの歴代首相31人に加え、首相経験がないものの特に教団との深い関係が指摘される晋太郎氏も含めた計32人とした。
集計の結果、中曽根氏への言及は693回で突出して多く、2位・岸氏の188回を大きく上回った。3位は、首相就任を果たせなかった晋太郎氏の180回。4位は清和会を創設した福田赳夫氏の139回で、上位に入った3人の首相経験者と晋太郎氏の多さが際立った。
5位から8位までは、文氏の生前にそれぞれ政界で影響力を保った小泉純一郎氏(84回)、田中角栄氏(48回)、佐藤栄作氏(40回)、竹下登氏(35回)が続いた。当時、短期の1次政権(2006年9月~07年9月)だった安倍氏は34回の9位だった。
一方で岸田氏や、旧民主党政権で首相を務めた鳩山由紀夫氏、菅直人氏、野田佳彦氏らは検索に引っかからなかった。