|
毎日新聞 2021/7/1 東京朝刊 有料記事 899文字
<ピックアップ>
生物の細胞内で主に不要なたんぱく質を分解する現象「オートファジー」について、遺伝情報を持つメッセンジャー(m)RNAも選択的に分解され、たんぱく質の生成自体も制御していることを酵母を使った実験で確認したと、東京工業大などのチームが英科学誌ネイチャーコミュニケーションズで発表した。ヒトを含む哺乳動物でも同様の仕組みがあり、mRNAの分解と疾患との関係の解明が期待される。
2016年にノーベル医学生理学賞の受賞テーマとなったオートファジーは、「自食作用」とも呼ばれる。生物が飢餓を乗り越えたり、細胞を新陳代謝したりするための現象で、細胞内にある自らのたんぱく質を分解する現象として知られてきた。近年、たんぱく質を合成するための遺伝情報を持つ核酸であるRNAも分解の対象であることが知られるようになったが、詳細は不明だった。
そこで研究チームは、mRNAの分解酵素を持たない酵母を作り、酵母の細胞内で分解される場所へ運ばれるmRNAを調べたところ、分解されるものとされないものがあることが分かった。詳細に調べると、約7000種のmRNAのうち、分解されやすいのは約500種、分解されにくいのが約500種、残りは特徴がみられなかった。
分解されやすいmRNAを調べると、細胞内で20~40%が分解を受けていることも明らかになった。また、たんぱく質を合成する細胞内小器官の「リボソーム」と結合しているmRNAほど、分解されやすいことも分かった。オートファジーを受ける目印になっている可能性があるという。
このmRNA分解酵素は哺乳動物も持つ。たんぱく質が正常に作られなかったり、異常なたんぱく質が蓄積したりすることで引き起こされる病気に、mRNAの分解異常が関係している可能性もある。オートファジーが加齢や遺伝でうまく働かなくなることなどによって、発病を招いている恐れもある。研究チームの東工大細胞制御工学研究センターの牧野支保研究員は「酵母のmRNAのうち、分解されやすいものとされにくいものの違いを詳細に調べたい。今後は哺乳動物を使ってさらに詳しく調べていく」と話した。【渡辺諒】