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毎日新聞 2023/3/1 東京朝刊 615文字
社会の多様性を反映することで知られる米国のSF宇宙ドラマシリーズ「スター・トレック」。3年前には難病の俳優が浮遊式の未来型「車いす」に乗る科学者を演じた。現実も追いつく。欧州宇宙機関(ESA)は昨年、世界初の「パラアストロノート」を採用した▲障害を持つ宇宙飛行士を指す造語。19歳で右脚を失い、パラリンピック陸上で銅メダルを獲得した英国の医師、ジョン・マクフォールさんが今春から基礎訓練に入る。米国でも障害者の無重力体験など将来の準備が進む▲国際月探査「アルテミス計画」をにらんで男女2人の宇宙飛行士候補が選ばれた。素晴らしい経歴の持ち主だが、応募条件は大幅に緩和されたそうだ。いずれ障害者の募集が行われる日が来るだろうか▲「あの事故さえなければ娘の将来は無限に選択肢があった」。父親の訴えに11歳の少女の前にあった未来の広がりを想像した。5年前に大阪市で重機にはねられて死亡した井出安優香(あゆか)さんだ▲生まれつき難聴で支援学校に通っていた。「赤組白組の思いのこもった手作りの旗と、迫力ある応援をご覧ください」。運動会で壇上に立ち、大きな声で話す映像に発音練習に取り組んだ日々が思い浮かぶ▲地裁は少女の逸失利益を全労働者の平均年収の85%と判断した。音声認識アプリなど支援技術が発達する中、健常者と同等に扱わないのは日本社会の現実の反映だろう。宇宙居住時代にこそ多様性が必要という議論まである欧米より1周も2周も遅れている。