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毎日新聞 2023/4/8 東京朝刊 839文字
戦後日本が堅持してきた平和国家の理念に関わる問題だ。防衛装備品の外国への供与がなし崩しに拡大することにならないか。懸念が拭えない。
途上国の軍に装備品などを供与する、新たな無償資金協力「政府安全保障能力強化支援」(OSA)を岸田文雄政権が創設した。
対象となるのは、民主主義や法の支配、基本的人権などを重視する「同志国」だという。今年度は20億円を予算化し、フィリピンなど4カ国を想定している。
非軍事分野を原則とする政府開発援助(ODA)とは別の枠組みだ。支援は、領海・領空の警戒監視や海賊対策など、「国際紛争と直接の関連が想定しがたい分野」に限るという。
相手国の軍を直接支援し、「日本にとって望ましい安保環境」を作り出す狙いがある。急激な軍拡と海洋進出を進める中国への対抗策であることは明らかだ。
日本周辺の安保環境が激変する中、周辺国との連携を強めることは必要だろう。ただし、今回の枠組みには曖昧な点が多い。
まず、今後どんな国が対象の「同志国」となるのか明らかになっていない。政情の不安定な途上国では、体制転換や軍事クーデターが起きる可能性があり、日本との関係も一変しかねない。
目的外使用や第三国移転をしないよう、相手国と国際約束を結ぶというが、管理が徹底されるかは疑問が残る。
OSAでの支援について、武器などの海外への供与・輸出を制限する「防衛装備移転三原則」の枠内で行うと政府は強調している。
ただ、与党は統一地方選後に、三原則の運用指針見直しを議論する方針だ。自民党内には、護衛艦や戦闘機など装備を幅広く移転できるよう、条件を緩和すべきだとの声がある。
指針の見直しにより、殺傷能力のある装備の海外移転に道が開かれれば、紛争の助長につながり、地域の緊張を高めることになりかねない。
首相は、国民に十分な説明もしないまま、防衛費の大幅増など、安保政策の大転換を進めてきた。日本として地域の安定にどう寄与するのか。全体像を示した上で、国会で議論を尽くすべきだ。