|
白杖は多くの視覚障害者にとって街中を歩く際に欠かせないツールだが、この100年来、ほとんど改良されていない。ところが、ここにきて急速に進化が進みそうだ。米バージニア・コモンウェルス大学のCang Ye氏らは、ロボット技術を利用した「ロボット白杖」の開発が前進したことを「IEEE/CAA Journal of Automatica Sinica」8月号に報告した。同氏らは、ロボット白杖の開発を通じて白杖が近代化されることに期待を示している。
試作されたロボット白杖には、3Dカメラとセンサーや、目的地まで道中の障害物を回避しながら利用者を導くためのコンピューターが搭載されている。もちろん実用化にはまだハードルがあり、全体の軽量化もその一つだ。またYe氏らは、たとえ技術的な課題が解決されたとしても、完成したロボット白杖が視覚障害者に受け入れられるかどうかという問題もあるとしている。
それでもYe氏らは、ロボット白杖によって視覚障害者が行き慣れていない大規模な屋内施設を移動しやすくなることを願っている。現在でもすでに屋外での移動を助けるスマホベースのアプリなど、白杖に搭載できるさまざまな技術が開発されているが、広大な屋内施設での移動となると、まだ十分とは言えない。
Ye氏らが開発したロボット白杖の旧バージョンは、建物の平面図を取り込むことで、屋内のナビゲーションに対応できた。利用者が行き先を声で指示すると、音声の合図と杖の先端部分の電動ローラーが目的地まで導いてくれるというものだった。
しかし、旧バージョンには問題があった。例えば、白杖の向きを正確な角度で変えることが難しかった。そのため長い距離を移動する場合、杖の向きがわずかにずれて、最終的には誤った場所に導いてしまうことがあった。
杖が盲導犬代わりに
最新型のロボット白杖では、そうした欠点の克服を目指した。例えば、新しいロボット白杖には、出入り口や階段、歩行を妨げる可能性のある張り出し部分などの形を把握し、それらまでの距離も測れる高性能で小型の3Dカメラが追加された。このカメラから得られた情報とセンサーのデータを利用して、ロボット白杖に搭載されたコンピューターが利用者を正確に目的地まで導き、道中に障害物があれば注意を促すことができるという。この最新型のロボット白杖についてYe氏は「ロボット型の盲導犬と杖を組み合わせたようなものだと捉えると良いかもしれない」としている。
研究資金を助成した米国立眼病研究所(NEI)所長のMichael Chiang氏は、「これまでわれわれが利用できる技術はそれほど多くはなかったが、この研究は、科学と技術が人々のニーズに応えることができることを示した一例と言える」と語る。そして、「疾患の治療法を明らかにするだけでなく、全ての人を総合的に支援する方法を開発するための研究も重要だ」と付け加えている。またChiang氏は「今回のような研究は視覚障害のある人たちの活動のチャンスを広げることにつながる」と期待を示している。ただ、ロボット白杖が実際に商品化される時期については、現段階では予測できないとのことだ。
なお、Ye氏は今後の課題として、多くの人々が行き交う空港や地下鉄の駅でも、問題なく使用できるロボット白杖に改良することなどを挙げている。(HealthDay News 2021年9月16日)Copyright © 2021 HealthDay. All rights reserved.