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どの病院、どの科に行ったらいい? 家族のことまで相談できる? 「かかりつけ医」を持つことのメリット
高尾美穂・産婦人科医/イーク表参道副院長
2024年10月3日
かかりつけ医を持つことの大切さが再認識されています。なんだか調子が悪いとき、体に関して困ったことが起きたとき、すぐに相談できるのがかかりつけ医です。これからかかりつけ医を持ちたいと思ったら、何を基準にどういった医師を選んだらよいのでしょうか。産婦人科医の高尾美穂さんに聞きました。
女性は婦人科もおすすめ
かかりつけ医は、もともと何か持病をお持ちの場合は、長く診察を受けている医師が望ましいですが、基本的にどの科の医師でもよいと思います。ですが、女性が新たにかかりつけ医を持つのであれば、婦人科もおすすめしたい選択肢のひとつです。
特に、生理が繰り返し来ている年代の間は婦人科医がおすすめです。例えば、生理が重い、生理の周期に伴って肌が荒れる、健康診断の結果が気になる――など相談したいときに、婦人科医であれば、どれもまあまあのアドバイスができます。
若い世代でも、生理が重くてつらいときには婦人科にかかってほしいと思います。困ったことがあったとき、いろいろな手立てでどうにか情報を得ようとするかと思います。でも、誰がいつ発信したのかわからない情報や、不確かな情報より、本人を診察した専門家からの言葉は信頼に値します。海外では、受診したくても、予約して数カ月待つこともありますが、日本ではそこまで待つことはありません。未成年であれば保険証を使うため、親に伝えるのをためらってしまう場合があるかもしれませんが、親世代も「そうなんだね」と前向きに受け止めてもらえればと思います。
年代とともに女性の状況は変わっていきます。閉経を迎えて、女性ホルモン・エストロゲンの分泌が止まると、今度は生活習慣病のリスクが高くなります。コレステロール値が上がったり、血圧が上がったりします。ですから、そういった年代であれば、内科にもかかりつけ医がいるとより安心かと思います。
更年期ぐらいの年代で、生理にまつわる悩みがとくになく、そこまで困った更年期の症状がないのであれば、婦人科医から内科医へと、かかりつけ医を切り替えていくのもよいかもしれません。
健康診断も受診のきっかけに
医師に診てもらうきっかけは、人それぞれかと思います。なんらかの異常があって受診する方が多いかと思いますが、例えば健康診断の結果で気になる点があるというのも、十分な受診理由になります。
例えば、健康診断で子宮筋腫があることがわかり、「1年に1回チェックしましょう」と結果に書かれていたとしても、心配なのであれば婦人科にかかって構いません。血液検査で「貧血」という結果だったというのも、婦人科にかかるきっかけになり得ます。生理がある年代であればまず、「貧血の原因は生理の量が多いからかもしれない」と考えるからです。
生理周期が不安定だとか、生理が3カ月空いてしまったとか、そういったことをきっかけに受診するのも自然な流れだと思います。更年期世代の方であれば、「ほかに何か困っていることはありませんか?」という形で、さらにお話を聞いていきます。
家族など環境について知っているのもメリット
かかりつけ医を持って、同じ先生にずっと診てもらうことのよさの一つは、どういった経緯で今の状態になったのか、本人が説明しなくても、だいたいわかっているということです。最初から説明しなくてもよい、楽にコミュニケーションできる関係ですね。
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そして、何でも相談できる先生だといいなと思います。自分のことだけでなく、家族構成や仕事の状況も知っておいてもらえる。そういった関係が、本当の「かかりつけ医」なのかなと思います。
もちろん医師が相談を受けるのは、基本的に、体のこと、心のこと、医療で改善できそうな部分です。ただ、そうした困り事の背景には、日ごろの生活や家族との関係性などがあります。自分のことを知っていてくれる医師がいるのは、ありがたいことなのではと思います。
かかりつけ医がいるといいことの一つは、「どの診療科にかかったらいいかわからない」「どこの病院に行ったらいいかわからない」というような悩みを抱えたときにも、相談できるという点です。専門的な治療が必要であれば紹介状を書いてくれるでしょうし、そこまででなくても、「〇〇科がいいのではないか」などとアドバイスをしてもらえます。たとえ、専門外の分野だったとしても、普通の人の判断より専門家の判断のほうが、信頼できますよね。こうした水先案内人のような役割をしてもらえるのもかかりつけ医を持つメリットの一つかと思います。
優先順位を見極めよう
私の場合は、長い方だと15年ぐらい定期的に診察している患者さんがいらっしゃいます。主に大学病院に勤めていたころ、がんの手術をした患者さんです。私もこの間、いくつか病院を変わっていますから、こうしてずっと同じ医師に診察を受ける患者さんというのは、あまり多くないのかもしれません。
引っ越しなどで、同じ医師の元に通い続けることが難しくなることもあるでしょう。そうした際、どうやって「かかりつけ医」を選ぶのか。大事なのはそれぞれの優先順位だと思っています。
例えば、専門性を重視して選ぶのもアリです。ホルモンのことであれば、産婦人科医の中でも女性ヘルスケア専門医の資格のある先生がいいでしょう。がんを経験された方であれば、手術を担当した同じ先生が安心だと思うかもしれません。いくつか悩みがあるのならば、その中で重い悩みを相談できる診療科がいいでしょう。
「同じ先生がいつも診てくれるか」という点を優先したいと思う方もおられるかもしれません。クリニックや診療所であれば、同じ先生が診ることが多いですが、大きい総合病院では同じ診療科でも、曜日によって医師が異なるのが普通です。
もちろん、単に「近いから」「通いやすいから」というのも理由になります。
医師のキャラクターが大事だという方もおられるでしょう。ただ、理想にぴったり当てはまる人はなかなか出会えるものではありません。「こういう先生がいい!」という希望を強く持ちすぎないほうがいいかもしれません。
医師に対して「全部求める」のではなく、かといって「すべて任せる」のでもなく、「いろんなことを相談して、自分で決めるサポートを得る」という気持ちで医師に接してもらえたらと思います。
日本では「先生、かかりつけ医になってください」「はい、わかりました!」というようなやりとりがあるわけではありません。
医師の側からすると、例えば「次3カ月後に来てくださいね」と伝えて、そのくらいのタイミングで患者さんが来てくれたなら、「この患者さんは、私をかかりつけ医って思っているのだろうな」と感じる理由になるかもしれませんね。でも、患者さんの中には「調子がいいからまあいいか。困ったら行こう」と診察をパスしてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
患者と医師といっても人同士です。「かかりつけ医に」と思うなら、お互いの関係性をちゃんと構築する意識を持って付き合うことも大切なのではないかと思います。
(この連載は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました)
写真はゲッティ
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たかお・みほ 産婦人科専門医。医学博士。女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。東京慈恵会医科大学大学院修了。同大学付属病院産婦人科助教をへて2013年より現職。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。ヨガ指導者。婦人科診療に携わる傍ら、「全ての女性により良い明日を」をモットーに、医療・ヨガ・スポーツの三つの面から女性の健康に関する専門的な知識を分かりやすく発信している。NHK「あさイチ」などテレビ番組への出演や雑誌、SNSでの情報発信のほか、20年からは音声配信アプリstand.fm(スタンドエフエム)の番組「高尾美穂からのリアルボイス」で毎日、リスナーから寄せられる体や心の悩み、人生相談に回答している。「娘と話す、からだ・こころ・性のこと」(朝日新聞出版)、「女性ホルモンにいいこと大全 オトナ女子をラクにする 心とからだの本」(扶桑社)、「大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111」(講談社)、「心が揺れがちな時代に『私は私』で生きるには」(日経BP)、「いちばん親切な更年期の教科書 閉経完全マニュアル」(世界文化社)など著書多数。