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毎日新聞 2023/4/30 東京朝刊 有料記事 947文字
<滝野隆浩の掃苔記(そうたいき)>
「エンドオブライフ・ケア(ELC)協会」の設立8周年シンポジウムが4月15日、横浜市で開催された。「ユニバーサル・ホスピスマインドをすべての人生のそばに」がテーマ。今回は大学生や小学生も体験発表した。
協会では設立当初、人生の最終段階にかかわる人材の育成に力を入れた。ところが、小澤竹俊代表理事が学校に出向き子供たちに「いのちの授業」を続けるうちに、「解決できない苦しみ」は誰でも抱えており、専門家まかせにせず皆で学び合いたいという思いを強める。そうして「ユニバーサル・ホスピスマインド」という考えが生まれた。
一般に「ホスピス」では、死を前にしても穏やかに生きることを目指す。協会では死に限らず、病苦、貧困、いじめなど、あらゆる困難に直面する人を、子供から高齢者まで皆で支えるための講習会を開始。この考えは共感を呼び、全国規模の生協や大学との提携話が進んでいる。
「苦しい人は、わかってくれる人がいたらうれしい」。ELC会員が使うシンプルなキーワードだ。安易なアドバイスは要らない。ただ黙って話を聞いてくれると、気持ちは落ち着く。
「苦しんだことはムダだったのか」。琉球大2年の賀数(かかず)りちさんは発表の冒頭、自問した。子供のころは持病で入退院を繰り返し、友達はいなかった。つらい体験にフタをしてきた。でも昨年、大学で地元医師の「いのちの授業」に出会う。自分も誰かの支えになれるかもと考えた。「苦しんだからこそ、私、気づけました。ムダじゃなかった」
小学6年生の鎌田紗叶(かまださほ)さんは、保健室での出来事を話した。イライラしてモノを投げたり、たたいたりする子がいた。「どうしたのよ?」と聞いたりしない。つらいとき、聞かれても困るから。自分もそうだった。だから黙ってそばにいた。「そうしてその子と、一緒に遊ぶようになりました」。紗叶さんは言う。「人は変わります。変わるって、すごいことです」。隣でママが、泣きながら聞いていた。
「一部の専門家が提供する、一部の人のためのケアでいいのか」。小澤さんはそう問い続けてきた。地域で学校で、そばにいて気づいた人が、支えたらいい。「半径5メートルの人を幸せに」。今回の副題の意味をかみしめる。(専門編集委員)