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ぼうこうは、腎臓から流れて来る尿を一時的にためる役割を果たしている。この臓器に炎症が起こるぼうこう炎は、男性より女性がかかりやすい病気だ。いくつかタイプがあるが、何度も繰り返したり、ぼうこうに強い痛みが生じたりして生活に支障が出ることがある。どんなときに医療機関を受診したほうがよいのか。ぼうこう炎のタイプと治療、女性に多い理由などについて、亀田総合病院ウロギネ科医長の常盤紫野さんに聞いた。
細菌性ぼうこう炎は風邪のようなもの
「排尿時や排尿後に下腹部や尿の出口の辺りがチクチク痛む」「トイレへ行ったばかりなのに、すぐにまた尿がしたくなる」「排尿後すっきりせず、残尿感がある」「尿が白くにごっている」……。こんな症状があったら、細菌性ぼうこう炎かもしれない。
「細菌性ぼうこう炎は、大腸菌などの感染によって、ぼうこうに炎症が起こる病気です。いわゆる一般的なぼうこう炎のことで、単純性ぼうこう炎、急性ぼうこう炎とも呼ばれます。排尿時や排尿後の痛み、頻尿、残尿感といった症状が出るのは、炎症によってぼうこうが刺激されるから。人によっては血尿が出ることもあります。ただ、ぼうこうが風邪をひくようなもので、女性なら誰でも年に1~2回かかってもおかしくない感染症です」と、常盤さんは解説する。
ぼうこう炎では一般的に、膣(ちつ)の周辺のかゆみや性交時痛といった症状は出ない。そういった症状があるなら、膣の粘膜の炎症である可能性が高いので、産婦人科かウロギネ科を受診してみるとよいだろう。「ウロギネ」は、泌尿器科(Urology)を表す「ウロ」と、婦人科(Gynecology)を意味する「ギネ」を合わせた造語で、泌尿器科と婦人科の境目にある病気の診療科だ。
ナプキンやパッドの交換はこまめに
では、細菌性ぼうこう炎が女性に多いのはなぜなのだろうか。
「女性は男性に比べて、尿の出口と大腸菌などの細菌が多い肛門までの距離が近く、尿道の長さが短いため、ぼうこうに細菌が入りやすいと考えられます。また、月経のある女性は生理用ナプキン、高齢女性は尿失禁用のパッドを使う人が多く、そういったものをこまめに交換しないと細菌感染しやすくなることも関係しているかもしれません」と常盤さんは話す。
治療は、ST合剤(商品名:バクトラミン、バクタなど)、セファレキシン(商品名:ケフレックス、センセファリンなど)といった抗菌薬(抗生物質)の服用が中心となる。
ぼうこう炎には市販薬もある。どのようなときに受診したらよいのだろうか。
「市販薬は炎症を抑える作用のある漢方薬で、細菌を死滅させる抗菌薬とは異なります。症状が改善すれば使ってもいいと思いますが、市販薬を使っても症状が改善しないか悪化した場合、あるいは、一時的に改善しても同じような症状を繰り返すときには、内科や泌尿器科、ウロギネ科を受診しましょう。ぼうこう炎かもしれないと思ったら、できるだけ医療機関を受診し、抗菌薬を服用したほうが早く治ります」と常盤さんは回答する。
細菌性ぼうこう炎は、トイレを我慢して尿をため過ぎる▽性交時のパートナーからの細菌感染▽尿失禁対策のパッドを長時間交換しない――といったことが原因になりやすい。特に、ぼうこう炎を繰り返している人は、尿を我慢し過ぎず、尿道周辺の衛生面に注意する必要がありそうだ。
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細菌感染とは関係ない原因不明の間質性ぼうこう炎も
ぼうこう炎のタイプには、他にも、細菌による炎症が慢性化した慢性ぼうこう炎と、間質性ぼうこう炎がある。慢性ぼうこう炎は、ぼうこう結石ができたときや、尿道に長期間カテーテルと呼ばれる管をつけたときに起こる病態だ。
一方、「排尿時や排尿後に痛みがある、頻尿、残尿感など、細菌性ぼうこう炎と同じような症状があるけれども、尿検査では異常が見られない場合には、ぼうこうの粘膜の下の間質と呼ばれる部分に原因不明の炎症が起こる『間質性ぼうこう炎』かもしれません。強い尿意を感じて1時間に何度もトイレへ行ったり、ぼうこうや下腹部に強い痛みを感じたり、痛みがぼうこうだけではなく下腹部全体に広がったりする場合があります」と常盤さんは指摘する。
この病気かどうかの診断には、局所麻酔をして、小型カメラと器具がついたぼうこう鏡を尿道から挿入する「ぼうこう水圧拡張術」が必要になる。内部の様子を観察しながら生理食塩水を注入してぼうこうを広げ、点状出血、五月雨出血や潰瘍の有無を確認する検査であり、粘膜を広げられることで脆弱(ぜいじゃく)な血管が破綻して粘膜の再生が促され炎症を抑えるという治療も兼ねている。
ぼうこうの粘膜の一部がなくなってひび割れたようになる「ハンナ病変」がある場合には、ぼうこう水圧拡張術の際に、電気メスやレーザーで粘膜の病変部分を焼き切る焼灼(しょうしゃく)術を行う。ぼうこうから出血することもあるため、ぼうこう水圧拡張術は入院して実施するのが一般的だ。
間質性ぼうこう炎の治療には、鎮痛薬、抗うつ薬、抗アレルギー薬、免疫抑制剤などを用いる場合もある。焼灼術で症状が改善して治る人もいるものの、再発を繰り返す場合が多く確立した治療法がないため、ハンナ病変のある「ハンナ型間質性ぼうこう炎」の重症例は難病に指定されている。
亀田総合病院ウロギネ科医長の常盤紫野さん
「肉体的または精神的なストレス、カリウムの含有量が多いかんきつ類、チョコレート、カフェイン飲料、トマトなど、香辛料の強い食品、たばこ、アルコールは間質性ぼうこう炎の症状を悪化させることもあります。できるだけストレスは減らし、悪化要因になるような食べ物、嗜好(しこう)品を知っておき、摂取し過ぎないようにするとよいでしょう」と常盤さん。
難病情報センターによると、間質性ぼうこう炎の患者は全国に約4500人いる。それほど多い病気ではないが、間質性ぼうこう炎かもしれないと思ったら、泌尿器科かウロギネ科を受診してみたほうがよさそうだ。
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