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トリーチャー・コリンズ症候群(TCS)は、1900年にイギリスの外科医であり、眼科医でもあったエドワード・トリーチャー・コリンズ(Edward Treacher Collins) が初めて詳細を報告した、顔の形成不全を伴う遺伝性の病気です。非常にまれな難病で、発症するのは1万人に1人、あるいは5万人に1人と言われています。
難聴や呼吸障害を伴うことも
個人差はありますが、目が垂れ下がり、下あごが短く、頬骨が未発達という特徴があり、耳や口の形が変わっている、といった、顔全体の変形がみられます。
顔の形成不全が耳や鼻の機能に影響することもあります。発症した人の40~50%は「耳小骨」の硬化や形成不全によって、伝音機能に障害が出る伝音性難聴を伴っています。また、鼻の穴が狭い、あるいは片側が塞がっていて呼吸障害がある、ということもあります。
遺伝する確率は50%だが、発症者が家系にいない孤発性も
原因は遺伝子の突然変異によるものです。遺伝子は体の設計図のようなもので、設計図に書かれた情報に基づいてたんぱく質が合成され、体がつくられます。その遺伝子が変異し、必要なたんぱく質を生成できなくなることが原因です。
現在、90~95%の患者に「TCOF1」という遺伝子の関与があることが確認されています。残りの5~10%は関与しない場合もあり、原因遺伝子の研究が続けられています。なお変異した遺伝子は50%の割合で次世代に受け継がれるといわれていて、家系に発症者がいる場合は、2分の1の確率で遺伝します。しかし、家系に発症者がいない場合でも、孤発性といわれる遺伝子変異が起きて発症することもあります。
治療は気道を確保する骨の手術のほかカウンセリングも
治療は今のところ、下あごの変形により狭まった口腔内や気道を確保するために骨の再建手術をする、難聴があれば補聴器を使う、といったように対症療法が主になります。何度も形成外科手術を受けることもあります。また、本人や家族に遺伝や健康上の問題などの情報を提供し、治療の支援をする「遺伝カウンセリング」を行っている病院もあります。
精神的ダメージ回避へ 一般の人の理解を
トリーチャー・コリンズ症候群は顔の変形を伴うため、周囲の無理解から精神的なダメージを受けやすい病気です。かつてこの病気を題材とした映画が話題になりましたが、その制作意図は、病気などによって顔の変形がある人への一般の理解を広めようというものでした。
ふつうと異なる形やアザなどを含め、その人固有の顔であり個性として尊厳を認め合おう、当事者の交流や社会への問題提起を進めようとする活動もあります。「ユニークフェイス」や「マイフェイス・マイスタイル」という名称を聞いたことがある人もいるでしょう。いわゆる見た目問題への理解が進み、病気や障害があってもその人らしくのびのびと生きられる社会が来ることが望まれます。
監修:松平隆光(医療法人社団秀志会 松平小児科院長)
「ケータイ家庭の医学」2019年5月掲載より