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毎日新聞 2023/5/18 東京朝刊 有料記事 1017文字
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米英豪が2021年9月に設立した新しい安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」。今年3月には、豪州が30年以降に米英両国から原子力潜水艦を受け取るスケジュールなどが決まった。
そうした中、北大西洋条約機構(NATO)の設立メンバーで、米国と長い同盟関係を築くカナダが、今月に入りAUKUSに興味を示し始めた。
カナダ、米、英、豪、ニュージーランドの5カ国は、機密情報を共有する「ファイブアイズ」を形成している。NATOなど他の軍事同盟と一線を画すほど結束が固く「血の同盟」と呼ばれる。
だが、そのメンバーであるカナダは、AUKUSには加わらなかった。カナダでは「ファイブアイズから外されたのでは」との声もあがるが、トルドー首相は「原潜は必要ない」との説明を続ける。
原潜にはカネがかかる。豪州が見積もる原潜導入費用は最大3680億豪ドル(約33兆円)。この数字のすごさを表現しようと、豪州メディアは、100ドル紙幣を「50万メートルの高さに積み重ねる必要がある」と伝えた。
カナダの財政は決して潤沢とは言えない。ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本やNATO諸国が相次いで国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上に増額しようとする中、カナダは1・3%にとどめている。
実は、カナダも東西冷戦末期に原潜導入を目指したことがある。10~12隻の原潜を調達する計画で、「血の同盟」を尊重するレーガン米大統領は1988年、米海軍の反対を押し切りカナダへの原潜供与にゴーサインを出した。豪州の要望に応え、米英がAUKUSを設立した構図に通じる。
だがカナダはその1年後の89年、一転して原潜計画を中止する。財政事情が急速に悪化したためだ。冷戦終結という出来事も、この決定を後押しした。
そんな教訓もあり、カナダは原潜導入に動きにくい。とはいえ「ファイブアイズ」の一員という立場だけは是が非でも保ちたい。
それを両立させる奥の手がある。原潜提供と並ぶAUKUSの「二つ目の柱」とも言える先端技術の共同開発だ。カナダのアナンド国防相は8日、「AI(人工知能)、量子コンピューターに強い関心がある」と参加に興味を示した上で「ファイブアイズの結束は強固だ」と付け加えた。
ニュージーランドも、カナダと同様、この分野でのAUKUS参加を模索中と伝えられる。「ファイブアイズ」の矜持(きょうじ)が透けて見える気がする。(専門編集委員)