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サノフィ社製の糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬のリキシセナチド(商品名リキスミア)がパーキンソン病の進行を遅らせる可能性のあることが、第2相臨床試験で示唆された。1年にわたってプラセボを投与された群では、振戦、こわばり、緩慢さ、平衡感覚などのパーキンソン病の症状が進行したのに対し、リキシセナチドを投与された群では進行しなかったことが確認されたという。ボルドー大学(フランス)Wassilios Meissner氏とトゥールーズ大学(フランス)のOlivier Rascol氏らによるこの研究結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に4月3日掲載された。
Meissner氏らは、パーキンソン病の診断を受けてから3年未満の患者156人を対象にランダム化比較試験を実施し、パーキンソン病患者の運動障害に対するリキシセナチドの効果について検討した。対象者には、症状を治療するために安定的に薬剤投与を受けている患者と運動合併症が現れていない患者が含まれていた。対象者は、1年にわたってリキシセナチドを皮下注射で投与される群とプラセボを投与される群に、それぞれ78人ずつ割り付けられた。主要評価項目は、試験開始から12カ月時点にMovement Disorder Society–Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(MDS-UPDRS)パートⅢ(以下、MDS-UPDRS)で評価したベースラインからのスコアの変化量であった。MDS-UPDRSによる評価は0〜132点でスコア化し、高スコアほど運動障害が重症であることを表す。
嘔吐(おうと)の副作用も
その結果、主要評価項目としたMDS-UPDRSのスコアの変化量は、リキシセナチド群では0.04点の低下であったのに対し、プラセボ群では3.04点の上昇、つまり悪化していたことが明らかになった(差3.08、95%信頼区間0.86〜5.30、P=0.007)。ただし、リキシセナチド群では46%に吐き気が生じ、13%が嘔吐を経験したことを報告した(プラセボ群ではそれぞれ、12%と3%)。
専門家らは、「この研究結果は今後、運動障害に対するリキシセナチドの効果を検討する上で良い出発点になる」との見方を示している。米フロリダ大学のパーキンソン病専門家で、この研究には関与していないMichael Okun氏は、リキシセナチドによる治療は、確実に成功するわけではないが、「治療の改善に向けて進展しているのは確かだ」と述べている。
また、米国立神経障害・脳卒中研究所のHyun Joo Chu氏は、「非常に重要な」結果との認識を示す一方で、この研究のような初期の研究は仮説を検証するためにデザインされたものに過ぎない点に注意を促している。同氏は、「第2相試験で大いに有望視される結果が得られても、次の段階で期待通りの成果が得られるとは限らない」と述べている。
Rascol氏はニューヨーク・タイムズ紙に対し、「先行研究では、2型糖尿病患者のパーキンソン病リスクが高いことや、糖尿病治療のためにGLP-1受容体作動薬を使用することで、そのリスクは低下する可能性が示されている」と説明する。さらに、死亡したパーキンソン病患者の脳組織を調査した研究では、GLP-1受容体作動薬が治療標的とする、インスリン抵抗性に関連した異常が見つかっていると付け加えている。
研究グループは、より多くの人を対象にした長期研究でパーキンソン病の運動障害に対するリキシセナチドの効果を検討したいと考えている。
(HealthDay News 2024年4月4日)
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