|
逆行性射精(ぎゃっこうせいしゃせい)では、射精をしても精液が体外に出ていかず、膀胱(ぼうこう)に流れ込んでしまいます。とくに健康に大きな害を与える症状ではありませんが、妊娠を希望する場合は不妊の原因になるため、治療が必要になります。
尿道との間の弁が機能せず膀胱に精液が流れ込む
男性は精液も尿も尿道を通して体外に放出しますが、射精時は膀胱の出口部分の弁が働き、内尿道口が閉じることで精液が膀胱に逆流するのを防いでいます。ところが、逆行性射精では、何らかの原因で膀胱と尿道の間の弁が機能しなくなってしまうため、精液が膀胱に逆流してしまうのです。
射精の際に精液がまったく外に出てこないタイプのほか、ごく一部の精液が体外に射精されるタイプもあります。精液がまったく確認できない場合は、自分で気づくことができますが、少量でも精液が体外に射精されると、精液の量が少ないだけと思って異常に気づかないこともあります。
術後の神経障害や脊髄損傷、糖尿病などの治療薬も原因に
診断、治療は泌尿器科で行います。原因は不明の場合も少なくありませんが、泌尿器の手術後に起こる神経障害、脊髄損傷、糖尿病、高血圧や前立腺肥大症の治療薬などが原因で起こることが知られています。
検査では射精後に排尿して、その尿の中に精子がいるかどうかを調べます。尿道の弁がきちんと機能していれば、精液が尿道から膀胱へと逆流することはなく、尿に混ざってしまうこともありません。
治療は主に薬物療法
治療は主に薬物療法が行われます。日本では2018年9月から抗うつ薬として用いられているアモキサピンを保険診療に用いることが可能になりました。アモキサピンが有効な理由としては、交感神経の受容体を刺激するため、膀胱と尿道の境目にある膀胱頸部の収縮を促し、体外への射精が可能となるのではないかと考えられています。
逆行性射精は精子に問題があるわけではないので、不妊の原因がこれだけであれば、妊娠の可能性は十分にあると考えられます。症状や程度に応じた治療を医師に相談しながら進めていきましょう。
不妊症の原因は男女ともにあります。悩んでいる場合はカップルで検査を受け、原因を明らかにした上で必要な治療を行っていく必要があります。女性に比べて男性は、不妊症の検査をためらう傾向があるといわれます。男性もきちんとチェックを受けることが大切です。
監修:増栄孝子(ますえクリニック )
「ケータイ家庭の医学」2019年3月掲載より