|
ソニーの犬型ペットロボット「aibo」(アイボ)=根岸基弘撮影
造血幹細胞移植を受ける血液がん患者は、治療に伴い、身体的にも心理的にも大きな痛みを経験する。新たな研究により、患者が血液内科の無菌室で治療・療養している間、犬型ロボットの「aibo」と触れ合うことで、心理的ストレスが軽減されることが明らかとなった。東京医科大学血液内科学分野の研究チームによる研究結果であり、「Scientific Reports」に2月27日掲載された。
強い抗がん剤を使用する血液がん患者は、感染症を予防するため無菌室に入室する。閉鎖的な空間で長期療養を要することから、一般病棟の患者と比べて不眠や抑うつが多く生じる。近年、慢性疾患患者の精神的ケアの一つとしてセラピードッグなどが導入されつつあるが、免疫力が低下している血液がん患者には適していない。そこで著者らは、人工知能(AI)を搭載したソニーグループ株式会社の犬型ロボット「aibo」を導入し、患者の心理面に及ぼす効果を検証した。
今回の研究は、東京医科大学病院で2020年2月~2022年8月に造血幹細胞移植を受けた患者を対象に行われた。対象患者はaibo群と対照群にランダムに分けられ、aibo群の患者はaiboに好きな名前を付けて、無菌室で触れ合うことができた。無菌室に入室し、移植を受け、無菌室退室に至るまで、ストレスホルモンである唾液クロモグラニンA(CgA)、血清オキシトシン、血清コルチゾールの値が定期的に測定された。
「患者と診療スタッフのコミュニケーションも良好に」
解析対象の患者21人のうち、aibo群は11人(男性4人、女性7人)で年齢中央値は48歳(範囲24~65歳)、対照群は10人(男性7人、女性3人)で同57歳(44~67歳)だった。
CgA値について、入室時からの平均変化量を比較すると、移植時にはaibo群で121±135%、対照群で287±358%、退室時には同順に65±42%、218±258%となり、それぞれ有意な群間差が認められた。すなわち、aibo群では退室時のストレスレベルが有意に低下していた一方で、対照群では上昇していることが明らかとなった。また、オキシトシンとコルチゾールの測定結果からも、aibo群ではストレスが軽減している可能性が示された。
さらに、簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)を用いて抑うつ症状を比較した結果、aibo群と対照群で合計点数に有意な差は見られなかったが、精神運動状態の項目は、aibo群で入室時の1.6点から退室時の0.5点へと有意に改善していた(対照群では0.2点から0.3点)。
以上から著者らは、「aiboの導入により、造血幹細胞移植を受ける血液がん患者のメンタルヘルスを改善できることが示唆された」と結論付けている。ただ、移植後の身体的疼痛が強い期間はaiboと過ごせる時間が短くなることから、効果を最大化できるタイミングや、医療費・入院期間も踏まえた有用性などに関しては、さらなる検討が必要だとしている。
なお、著者らによると、aiboは実際の犬のように「もふもふ」とはしていないが、毛で覆われていないため、免疫力の低下している人でも感染を防ぎやすいという。aiboは歌ったり、踊ったりする。なでると喜ぶ。室内の散歩やラジオ体操を一緒にすることで体を動かし、手洗いやうがいも促してくれる。著者らは、「aiboのおかげで、患者と病棟スタッフとのコミュニケーションも良好だった」と付け加えている。
※aiboは、ソニーグループ株式会社の商標です。
(HealthDay News 2024年4月15日)