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たんぱく質はどのくらい食べてもいい? きちんと消化できているの? アンチエイジングの専門家がお勧めする、とっておきの“バロメーター”とは
米井嘉一・同志社大学教授
2024年10月23日
今回も食事の話です。
前回の記事では「糖(糖質)と油(脂質)の食べすぎは危険!」というお話をしました。メタボリックシンドロームや内臓肥満の人では、1日の摂取カロリーに占める割合が、脂質35%以上、糖質を含む炭水化物60%以上の方が少なくありません。このような食生活を送っていると、当然ながらたんぱく質の摂取不足に陥ります。1日の摂取カロリーに占めるたんぱく質の割合が10%以下になっているかもしれません。栄養失調の一歩手前の状態です。
まずは「腹八分目」が目標
人間の胃袋の大きさは決まっているので、食物の摂取量には限界があります。限界を目指すと「食べ過ぎ」になるので、おおむね「腹八分目」が目標になります。
食を語る時に注意すべきことは、ライフステージによって大きな違いがあることです。
必要なたんぱく質の摂取量も変わります。乳幼児、小児は成長するので多めに必要です。成長期を終えた成人でも、妊婦や授乳婦は子どもの成長の分も加味しなくてはなりません。
高齢者では、咀嚼(そしゃく)能力の低下、消化・吸収率の低下、運動量の低下に伴い、たんぱく質の摂取量が低下することが多くなります。また、機能には個人差があり、個人差は加齢に伴ってますます広がります。何らかの疾患を抱えていることもあるでしょう。
おそらく多くの方々が、自分がどのくらいの量のたんぱく質をとったら良いか、わからないことでしょう。
年齢や人種、消化管機能によってさまざま
基準になる資料としては、厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準」(2020年版)があります。500ページ近い大作で、年齢区分、運動量別に詳細な基準が設定されています。
65歳以上のたんぱく質の摂取量(摂取カロリーに占める割合)は、それまで13%以上だったのが、15%以上に引き上げられました。特に、筋肉量の維持や虚弱化(「フレイル」と呼んでます)の予防のためにはたんぱく質が欠かせないからです。
一方、たんぱく質の摂取の上限については、いろいろな情報があります。これは、年齢、人種、消化管機能(特に膵臓=すいぞう=パワー)、食習慣、腎臓機能、歯並び、そして腸内細菌叢(そう)の違いよって大きく変わるからです。
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従って表に示した上限値は、無難な数値(老若男女、多くの人に安全な値)が書かれています。頑強な若者であれば、たんぱく質の摂取量が30%を超えても問題ない場合もあります。しかし、実際の摂取量は2割にも満たないと思います。
年齢について、加齢に伴って肉の摂取は確実に減っていきます。重さがわかりやすいのでステーキを例にとりますと、ステーキをぺろりと食べてしまう高齢者は皆、元気です。私も見習って、200gぐらいの赤身ステーキを食べるようにしています。もちろんステーキ以外の肉も、魚も食べます。
ちなみに、私は年齢66歳、体重69kg、活動量は中の上です。ステーキ200gでたんぱく質として約46gを獲得でできます。赤身の牛肉なら、100g中にたんぱく質が23g含まれ、霜降り肉になると20~22gくらいに減ります。
私は、無理をすれば300gのステーキを胃袋に詰め込むことができますが、体調に変化が表れます。一番わかりやすいのは便の性状です。
理想的な便の性状は?
世の中にはいろいろな「健康オタク」がいます。私はもともと消化器内科の専門医であるため、腸内細菌については詳しい方だと自負しておりますが、仲間が集まると熱い便通談議がはじまります。
国立病院機構埼玉病院の関塚永一・名誉院長に至っては「35cmの真っすぐな『美しいウンチ』が出た。この長さは66年間で生まれて初めての経験なので、つい写メした」と論文に記載しています(注)。私は、この記録を超えたという論文を知りません。
記事「アスリートに学ぶメンタルヘルスとベストパフォーマンス そのカギは『おなかの中』にあった?!」に登場した鈴木啓太氏は、一流アスリートは皆さん便通が良好と述べていました。
便通談議の中で、私の便通の秘密を吐露してしまいました。
私のベストな状態は、
色:黄色から薄茶色
形:直線に近いバナナ型
長さ:15~20cmくらい(よくわからず)
におい:軽度
――です。ここまでは良かったのですが、「調子が良いとトイレ紙なんて3、4日、使いませんね」と言ったところ、ドン引きされてしまいました。実に経済的です。今でも、目標であることには変わりありません!
しかし、300gのステーキを食べると、便通に乱れが生じます。
便の色はこげ茶から黒っぽく、表面がベトベトした感じになり、強いにおいを発するようになります。当然、排出ガス(おなら)も臭くなります。トイレ紙の消費も増えます。
たんぱく質は消化・分解が大切
肉でも魚でも、消化液で分解して、未消化のたんぱく質を大腸に送り込まないことが大切です。腸内細菌叢のうち、善玉菌のえさは食物繊維やオリゴ糖です。未消化のたんぱく質をえさにすることはできません。
健常な人でも、口から食べたたんぱく質を、完全に消化して、吸収して、すべての栄養を体内で活用できるわけではありません。利用効率は約90%なので、一部は未消化のたんぱく質として大腸に到達します。これらの栄養成分は腸内細菌によって代謝を受けます。
食物繊維などは善玉菌によって発酵することで、酢酸、酪酸、乳酸、アミノ酸が生成されます。
たんぱく質は、それ以外の腸内細菌によって分解され、アミノ酸が生成されるほか、異常発酵(腐敗)によって便臭や排ガスのもととなる成分が発生します(図をご参照ください)。大腸内に未消化のたんぱく質が増えると、腸内細菌叢のバランスに異常(ディスバイオシス)を来します。
ディスバイオシスは、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎など)の消化器疾患だけでなく、腸脳連関による精神・神経症状や、肥満やメタボリックシンドロームなどの代謝異常に関連があると言われています。
大切な腸内細菌を慈しむつもりで
腸内細菌は、人類の誕生以前から、私たちとともに地球の厳しい自然の中を生き抜いてきた大切な仲間です。どうか愛情深く育ててください。ステーキを例にとりますが、他の食べ物もいっしょです。
ステーキを食べる時は良くかむことです。これによって肉が細切れになって、消化酵素が働きやすくなります。「かんで、かんで、かみまくって」(臨床現場では本当にこのように指導します)、どこまでドロドロの状態に近づけるかが勝負です。
胃に入ると、胃液による消化が始まります。胃液の主成分である塩酸によってステーキのたんぱく質が加水分解を受けます。内容物がドロドロになって、十二指腸に送られます。
十二指腸では、胆汁と膵液が分泌されます。胆汁は、たんぱく質や脂質の分子の形状を整えて、分解しやすくする役割があります。膵液は、強力なたんぱく分解酵素(プロテアーゼ)と脂質分解酵素(リパーゼ)によって、たんぱく質と脂質を分解します。膵臓の膵液分泌能力には個人差があり、農耕民族と狩猟民族では特にその差は大きいです(記事「膵臓パワーの違い? 糖尿と肥満の絶妙な関係」をご参照ください)。
膵臓パワーが弱い方は、無理して食べ過ぎないよう気をつけましょう。消化の良いたんぱく質を選ぶと良いでしょう。医師に相談して、たんぱく分解酵素を含む消化剤の処方を受けるのも良いでしょう。
この記事は、基本的には健常者(境界型疾患がある方を含みます)に向けに書いています。腎臓機能に問題がある方は、たんぱく質の摂取制限が必要な場合があるため、医師の相談を受けてください。
消化の良いたんぱく質って?
最後にお肉以外の消化しやすいたんぱく質を紹介します。
大豆たんぱく:納豆などの発酵食品はさらに消化吸収率が高まります。
卵:黄身も白身も良質なたんぱく質です。なるべく油を使わない調理法が良いです。
乳製品:牛乳、ヨ-グルト、チーズは消化されやすく、カルシウムが多く含まれ、脂質が少ないすぐれものです。
穀物たんぱく質も摂取たんぱく質量に合算してください。小麦粉(強力粉)には11~13%、小麦粉(薄力粉)には7~9%、米粉には約6%のたんぱく質が含まれます。小麦粉に水をくわえてこねた時にグルテンたんぱくができます。グルテンは米たんぱくに比べて消化吸収効率が低く、人によってはグルテン不耐症を起こします。
パンがいいか、ご飯がいいか? 自身の腸内細菌たちの反応をみて決めると良いでしょう。便の性状に変わりがなければ、どちらでも構いません。ちなみに私はご飯派、推しは全粒穀物の玄米や加工玄米です。
たんぱく質不足にならないように、1日の摂取カロリーの15%以上の摂取をこころがけましょう。あの手この手を駆使して、腸内細菌たちに喜んでもらいましょう。その成果は便の性状に表れるはずです。
注:Sekizuka E, et al. .Glycative Stress Research 5(4): 181-191,2018.
写真はゲッティ
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よねい・よしかず 1958年東京生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。89年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。08年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、日本人間ドック学会評議員。医師として患者さんに「歳ですから仕方がないですね」という言葉を口にしたくない、という思いから、老化のメカニズムとその診断・治療法の研究を始める。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。