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暑さもやっと一段落し、乾燥や肌寒さが気になる季節になりました。心配なのが、さまざまな感染症。検査の種類や方法は多岐にわたっており、何かと疑問がつきまとうものです。
「RSウイルス感染症の検査をしてほしかったのに、なぜ『できない』と言われたの?」「かかりつけの先生は『胃腸炎の時は検査しませんよ』って言っていた。でも、友達の子はロタウイルスの検査をしたって言っていたけれど……」
そこで一般的に小児科(0〜15歳対象)で行う「感染症の検査(迅速検査)」について、詳しく解説します。
メインは「鼻」「のど」 「便」は検査しないことも多い
鼻から棒を入れるインフルエンザの検査。痛みを感じる大人も多いと思いますが、お子さんの場合でも同じように鼻から綿棒を入れて検査します。鼻水や、鼻の粘膜で増殖したウイルスを綿棒でぬぐい取り、その綿棒を専用の試薬(液)につけることで判定するのです。インフルエンザに限らず、コロナウイルスやRSウイルス、ヒトメタニューモウイルスによる感染症を疑った時も、鼻から綿棒を入れて調べます。
一方、のどから検査する感染症もあります。たとえば今年、過去最大級に流行した溶連菌。他に、アデノウイルスやマイコプラズマによる感染症も、のどからになります。
一般的な小児科であれば、こうした「鼻」や「のど」の検査を扱っていることがほとんどです。
また、扱う医療機関は少ないものの、便による検査をする場合もあります。下痢をはじめ胃腸炎の症状が疑われる時にノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスに感染しているかどうかを調べるのです。実際は検査時にタイミングよく便を出せるわけではないので、肛門から綿棒を入れます。便のついたオムツを持参すれば、その便で検査できる場合もあります。
このように小児科での感染症検査は、「鼻」「のど」がメイン。少しサブ的な位置づけで「便」というイメージです。検査にかかる時間はキットやメーカーによっても異なりますが、およそ5〜20分になります。
「どの検査ができるか」は医療機関によって大きく異なる
ただし、実際にどの検査ができるかは医療機関によってかなり異なってきます。
小さなクリニックや診療所などでは、インフルエンザとコロナウイルスの検査だけをやっているという場合があります。また、溶連菌やアデノウイルスは比較的多くの医療機関が扱っていますが、マイコプラズマやヒトメタニューモウイルスとなると取り扱っていない機関が増えてきます。
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一方で入院病床などもある総合病院だと上記全ての検査を扱っていたり、「呼吸器病原体マルチスクリーニング」といって1回で12種類のウイルスや細菌を検査できるキットを用意したりしています。
「医療機関であれば、絶対にこの検査キットを常備しておかなければいけない」といった規則はなく、医療機関の規模や予算に応じて、それぞれの裁量に任されています。
よって、いくら保育園や学校で溶連菌感染症が流行していて、お子さんが発熱したとしても、医療機関に「うちでは溶連菌の検査はできません」と言われることはあるのです。検査をしたい感染症が明らかな場合は、その医療機関で検査ができるのかどうかを事前に問い合わせておく方がスムーズです。
「1歳以上」だとできないRSウイルス単体の検査
一つ、覚えておいていただきたいのは、医療機関に検査キットがあっても、年齢によっては検査できない場合があるということ。その代表格がRSウイルスです。
RSウイルスは0歳から一生の間で何回もかかるもので、月齢や年齢が低いほど発熱や鼻水、せきなどの症状が重症化しやすく、入院することもあります。また、さまざまなタイプや型があるので、園や学校でも1年の間に複数回流行することがあります。
しかし、RSウイルスの検査が保険適用される(無料で検査を受けられる)のは0歳のみ。1歳以上のお子さんは原則として、自費でお金を払わないと検査を受けることができません。時々、「保育園の先生から『RSウイルス感染症が流行しているので検査を受けてきてほしい』と言われました」とおっしゃる親御さんがいるのですが、1歳以上のお子さんの場合、原則として検査はできません。「自費でもよいから検査してほしい」と思っても万単位の負担が生じることがほとんどです。
保険適用ではない検査の場合、医療機関によって独自に金額を設定する必要があること、また、保険適用と適用外との混合診療が認められないため、検査が適用外だと全ての薬も適用外、つまり自費になってしまうことから高額になるのです。「1歳以上のお子さんにはRSウイルス検査ができない」としている医療機関が多い背景には、そうした事情があります。
中には1歳以上であってもRSウイルス検査が可能な医療機関もありますが、かなり予算のある機関に限られます。本来であれば患者さんが支払うべき金額を、医療機関が「自腹」を切って負担しているからです。
もう一つ、1歳以上でもRSウイルス検査ができる例として、同時にアデノウイルスの検査をする場合があります。たとえばRSウイルスとアデノウイルスの両方が流行している保育園に通う2歳のお子さんが高熱や鼻水、せきを発症しているような場合です。この場合は、RSウイルスとアデノウイルスを同時に調べられるキットを使うことがあります。クリニックによっては同時検査のキットのみを扱い、アデノウイルスだけを調べるキットがないこともあるので、結果として、1歳以上でも無料でRSウイルス検査もできることになります(ただし、この同時検査キットも、扱っている医療機関は限られています)。
もし、RSウイルス検査ができなかったとしても、周囲で明らかに流行している場合は臨床診断(検査をせずに、症状や流行状況から診断する方法)でRSウイルス感染症とするケースは多々あります。検査なしでも、症状に応じた薬は処方できますので、ご安心ください。
胃腸炎で「便」の検査とは
冬に向けては胃腸炎の流行も心配です。周囲で流行する中、お子さんに発熱や嘔吐(おうと)、下痢といった症状があると、親御さんは胃腸炎を疑って小児科を受診されると思います。
前述の通り、便を用いた検査はクリニックなどの1次医療機関では積極的にすることはありません。ほとんどの胃腸炎はウイルス性であり、どのウイルスであろうと基本的な治療や登園・登校基準は変わらないからです。前述の「1歳以上のRSウイルス感染症」と同じく、胃腸炎は臨床診断が原則で、吐き気止めや整腸剤などの処方は検査をしなくても可能です。
では、便を使った検査が必要となるのは、どのような場合なのでしょうか。
たとえば胃腸炎が重症で、クリニックから総合病院に移って点滴したけれどよくならず、入院をするような場合が該当します。その段階で初めて便の検査をすることが多いのです。
さらに、その目的は治療ではなく、入院する部屋を決めるためといった位置づけです。病院にはさまざまな感染症や病気のお子さんが入院していて、万が一、RSウイルスのお子さんと同じ部屋にロタウイルスによる胃腸炎のお子さんを入院させてしまうと、お互いに感染症を移し合ってしまい、重症化や長期化の恐れがあるからです。
発症して「すぐ」は検査が受けられないことも
最後に、見落としがちなポイントをお伝えします。
検査は早ければ早いほどいいということではなく、適切なタイミングがあるということです。お子さんに急な発熱や嘔吐があると「すぐに小児科を受診しなければ!」と思って受診するものの、何の検査もしてもらえないことはあります。「発熱してすぐは検査できないので、また明日来てください」と言われた経験はありませんか?
これは、発症して間もないと「偽陰性」の可能性が高くなってしまうからです。どんな感染症でも症状が出てからすぐの時期は、ウイルスや細菌の増殖量が十分でないことが想定されます。そのような状態で鼻やのどから検査をしても、偽陰性、つまり本当はウイルスや細菌が存在しているのに、検査上はウイルスや細菌量が十分ではないために陰性と出てしまう可能性が高いということです。
では具体的に、発症してから何時間後が検査に適しているのでしょう。
明確な基準はないのですが、一例としてインフルエンザは、少なくとも発熱や咽頭(いんとう)痛などの症状が出て12時間以上たってからの方が正確な値が出るという報告があります。こうした報告をもとに、医療機関によっては「発熱してからすぐは検査できません」「発熱12時間以上たってからでないと検査できません」などと明確にルールを定めているケースがあります。お子さんにとっては「痛くて怖い思いをする検査」ですから、なるべく正確な結果が出る時期にしてあげたいという配慮によるものです。
お子さんの「ぐったり感」がどんどんひどくなっていくといった症状の急変がない限りは、基本的に発症してから12〜24時間たった後に受診した方が検査の正確さは高まるということです。
いかがでしょうか。
感染症の検査はさまざまあれど、実際に受けられるかどうかは医療機関や年齢、症状などによって異なります。具合の悪いお子さんを連れての受診や検査は本当に大変ですよね。だからこそ上記のポイントを心に留めていただき、受診前にホームページでチェックするなど準備を整えておきたいものです。
<参考文献>
明石祐作ほか「発症から検査までの時間がインフルエンザ迅速抗原検査に与える影響:前向き観察研究」感染症学雑誌 第95巻 第1号 2021
写真はゲッティ
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白井沙良子
小児科医/小児科オンライン所属医師
しらい・さよこ 小児科専門医。「小児科オンライン」所属医師。IPHI妊婦と子どもの睡眠コンサルタント(IPHI=International Parenting & Health Insutitute、育児に関するさまざまな資格を認定する米国の民間機関)。慶応大学医学部卒。東京都内のクリニックで感染症やアレルギーの外来診療をはじめ、乳幼児健診や予防接種を担当。2児の母としての経験を生かし、育児相談にも携わる。***小児科オンラインは、オンラインで小児科医に相談ができる事業です。姉妹サービスの「産婦人科オンライン」とともに、自治体や企業への導入を進めています。イオンの子育てアプリより無料で利用できます。詳細はこちら。