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高齢ドライバーの8割近くが事故前に運転障害薬を使っていた?! 和田秀樹医師が指摘する、知られざる「薬害」の実態
和田秀樹・和田秀樹こころと体のクリニック院長
2024年11月9日
71歳の男性が運転する乗用車が病院に突っ込み、女性2人が死亡した=大阪市生野区で2023年3月1日午後4時39分、望月亮一撮影
私の親友の岡本卓(たかし)さんが面白い論文を送ってくださった。
岡本さんは、おそらく東大医学部の同期の中でトップの成績で卒業され、アメリカでも業績を上げ、日本でも研究を続ける予定だったのに、アメリカの研究機関に資料を持ち出したとか訴えられたために研究生活を断念された方だ。
日本だと、会社の金で研究し、アメリカの大学教授になった人がノーベル賞をとると、英雄のように持ち上げたが、会社での研究成果のかなりの部分をアメリカに持ち出したと聞いたことがある。アメリカは自国の研究を持ち出されることには極めて厳しい態度をとる。
日米の差を感じずにはいられないし、こんなことだったら、半永久的に科学技術力でアメリカには勝てないと痛感したが、日本人は科学技術でも1人当たりのGDPでも、賃金でも、アメリカどころか韓国にも負けているのに、ぜんぜん危機感を覚えない。
2型糖尿病でもインスリンをやめられる?
ただ、この岡本さんは、北海道で開業医になってからも勉強を続け、患者さんに慕われる名医となっている。
日本では、糖尿病というと、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを使う治療が主流だ。
実は、糖尿病には1型と2型がある。
1型はインスリンが身体であまり作れなくなり、インスリン不足のために起こる糖尿病だ。
2型はインスリン分泌低下もある程度起こるが(起こらないでむしろインスリンが増えるタイプもある)、インスリン抵抗性といって、臓器のインスリン感受性が低下するために、同じだけインスリンが出ていても、その効きが悪くなるために血糖値が十分に下がらずに起こるのが主原因の糖尿病だ。
そして、2型糖尿病は、肥満や過食、運動不足などで起こるとされ、生活習慣病の代表的なものとされる。
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日本の医者はバカの一つ覚えみたいに、2型の人にでもインスリンを使うのだが、それをやるとよけいにインスリン抵抗性が増して、どんどん使うインスリンの量が増えてしまう。
岡本さんはそれに疑問を感じて、なるべくインスリンを使わない糖尿病治療を行い、患者さんの評判がとてもよい名医となったのだ。
その後、インスリンを使わない糖尿病治療の本も出版され、日本ではほとんど知られていなかったアコード試験の結果もその本の中で紹介された。
岡本卓さん著「糖尿病のみなさん、インスリンをやめてみませんか?」(飛鳥新社)
糖尿病の患者さんに血糖値を正常まで下げる治療より、ヘモグロビン(Hb)A1cを7~8%と緩めにコントロールするほうが死亡率も低血糖症状も少ないという2009年に発表された大規模調査の結果である。
最近、やっと日本の糖尿病学会も認めるようになったが、長い間、正常値にこだわる治療が日本では続けられているし、ほかの科の医者はそんなことを知らない人が今でも多いようだ。最近も、抜歯を勧められたのだが、歯科の大学教授でもHbA1cをせめて7にしてもらわないとと言われてあぜんとした。
実は私も6年ほど前に、糖尿病が見つかった。
当時の血糖値は660mg/dLもあり、インスリン治療は必須の状態だった。
検査の結果、インスリンが出ていることはわかったため、インスリンを使わない治療を行いたくて、相談に乗ってもらったのもこの岡本さんで、東京でそういう治療を行う医師も紹介してもらった。
今でも私はインスリンを使っていないが、自動車を運転するために、死亡率が低いHbA1c7~8%でなく、低血糖の発作がさらに起こりにくい8~9%でコントロールしている。
車がないと生活できない北海道の北見市で開業している岡本さんは、自動車事故の原因が高齢や認知機能の低下より、薬物による意識障害の可能性が高いという私の考え方に賛同してくれる数少ない医師でもある。
運転障害薬は事故の潜在リスク
前置きが長くなったが、その岡本さんが論文を送ってくれて、その内容は私の想像を超えるものだった。
アメリカでは、睡眠導入剤や鎮痛剤のような薬が運転障害薬とされているのだが、12万人強の高齢ドライバーが起こした人身事故について調査したところ、なんと77.6%の人が事故の前に運転障害薬を使用していたのだ。
この運転障害薬については、アメリカでは以前から危険が指摘されていて、処方薬の使用は高齢者における修正可能な自動車事故の潜在的危険因子と言われているし、とくに運転障害薬については、アメリカの道路交通安全局も自動車事故のリスクが高いことを証明するエビデンスも十分であることを強調している。
以前、このコラムで、池袋の事故も福島の事故も普段安全運転をしている人が、その時に限って暴走したので、意識障害(せん妄)の可能性が高いと指摘した。そして、それは薬物服用が背景にあるのではないかとも示唆した。
しかし、マスコミも警察も、まったくその可能性を考慮せずに、高齢のせいだと決めつけて、高齢者の免許返納を求めるようなキャンペーンを張った。
相模原署前に設置された運転免許の自主返納を啓発する看板=相模原市中央区で2016年12月1日午後2時9分、木下翔太郎撮影
アメリカと比べて、日本の医師もマスコミも警察もものを知らなすぎるし、高齢者の臨床をまともにやっている人が少なすぎるとがっかりしたものだ。
事故の8割が薬がからんでいることが明らかになった以上、日本のマスコミにも警察にも目を覚ましてほしいし、事故が高齢のためではなく、薬のためということが知られるようになれば、不本意な形で免許を返納して、外出の機会を失い、要介護になってしまう犠牲者も確実に減る。
筑波大学の研究調査では、免許を返納すると6年後の要介護になる確率が2.2倍にも増えてしまうのだから。
製薬会社へのそんたくはないか
ただ、マスコミが目を覚ましても、これが報じられない危険を痛感する事件をつい最近経験した。
「ビートたけしのTVタックル」という番組で、高齢者は免許を返納すべきかというテーマのコーナーでゲストで呼ばれたのだが、私が高齢より薬のほうが事故原因の可能性があると発言したら、そのあたりの話が完全にカットされてしまったのだ。
この番組は、ある製薬会社がスポンサーについている。
そこからの圧力があったのか、勝手に番組の製作者がスポンサーにそんたくしたのかはわからないが、テレビ局にとって大切なスポンサーを怒らせてはいけないということが、日本で薬害の報道にテレビが及び腰になっている原因の一つのように思えることが散見される。
小林製薬が紅こうじサプリ(薬ではないが、実際はロバスタチンという薬と同じ成分のものが主成分で、コレステロール値が下がるとされている)で多数の人の命を奪ったことが記憶に新しいが、このサプリにしても、もともと23年の秋ぐらいから健康被害が出ていたのに、厚生労働省が動くまでテレビではまったくそれが報じられることはなかった。
ついでにいうと、この紅こうじの腎機能障害の副作用は、海外では以前から問題視されていて、スイスでは販売が違法ということになっている。
私自身は、以前、医療監修を務めた小林製薬がスポンサーのテレビドラマで、小林製薬が薬を擁護するような形で放送内容に干渉を受けた経験があるので、テレビ局に問題を大きくしないように圧力をかけかねない会社だという印象をもっている。それはともかく、公共放送は、人が死ぬような被害が出ているのであれば、なるべく迅速に報じるのがモラルなのに、それがなされないことには、強い違和感を覚える。
小林製薬の紅こうじサプリについて、同社から新たに死亡疑いの報告があったと発表する武見敬三厚生労働相=東京都千代田区で2024年6月28日、肥沼直寛撮影
また、小林製薬は死者数が5人と公表してきたが、これも小林製薬側の独断で死者数の更新がまったくなされておらず、厚労省が再度問い合わせてやっと新たに76人の死者が判明したという信じられないような対応をしてきたことも明らかになっている。
スポンサーに対して性善説を取るにしても、こういうモラルのない会社があるのだという認識ぐらいはテレビ局にはもってほしい。
薬害の被害というのは、早く知られるほど、人の死を防げるのだから。
高齢者による事故の犠牲者を減らすためと称して、1日7件も交通死亡事故が起こっているのに高齢者が起こした事故だけを報じるくせに、製薬会社に対してはあまりに甘いと言われても仕方ないだろう。
公共情報をテレビは伝えているのか
最近、コロナワクチンの副反応、とくに副反応死の問題がマスコミでも取り上げられるようになった。
今年の9月28日のニュースでは、ワクチン接種と死因が否定できない場合に自治体が給付する「死亡一時金」などについて、鳥取県だけでこれまでに3人が支給の認定を受けたことも明らかになった。
2000人以上の人がコロナワクチン接種後死んでいることは以前から明らかになっていたし、厚労省もそれを発表していたが、テレビマスコミでそれが報道されることはほぼなかった。21年10月にNHKのクローズアップ現代で、副反応死がほとんど「因果関係不明」と扱われることを取り上げたが、民放はだんまりを決め込んでいた。
私自身は総接種回数が4億を超しているのだから、2000人の副反応死が出ても、ものすごく多くの数ではないとは思うが、ほとんど強制的に接種された人がいる以上、情報はきちんと伝えないと、人々の選択がゆがめられてしまうことは否定できないだろう。
とくに子どもについては、コロナ感染による死者がほとんど出ていないのだから、わずかでも死者が出ているならそれを伝えた上で、選択させないのはひどいと思う。
死亡リスクを下げるどころか上げているのだから。
要するに公共機能を果たすという理由で、電波料を大幅に安くしてもらっているテレビマスコミが公共情報を伝える機能を果たしていないのだ。
これは私の妄想かもしれないが、現在のテレビ局は、不景気が続くあおりとネット広告との競争のために、スポンサーにそんたくする度合いが、昔より強くなっている気がしてならない。
このような現状なのであれば、製薬会社のテレビCMを禁止するくらいでないと、いつまでたっても危険な薬の情報は相当遅れてからでないと国民には知らされないし、アメリカでは事故を起こした高齢者の8割も危険な薬を飲んでいることが明らかになっているのに、「高齢だから」危ないという情報が訂正されることはないだろう。
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わだ・ひでき 1960年大阪府大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒。同大学医学部付属病院精神神経科、老人科、神経内科で研修したと、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデントを経て、当時、日本に三つしかなかった高齢者専門の総合病院「浴風会病院」で精神科医として勤務した。東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、国際医療福祉大学大学院臨床心理学専攻教授を経て現職。一橋大学・東京医科歯科大学で20年以上にわたって医療経済学の非常勤講師も務めている。また、東日本大震災以降、原発の廃炉作業を行う職員のメンタルヘルスのボランティアと産業医を現在も続けている。主な著書に「70歳が老化の分かれ道」(詩想社新書)、「80歳の壁」「70歳の正解」(いずれも幻冬舎新書)、「『がまん』するから老化する」「老いの品格」(いずれもPHP新書)、「70代で死ぬ人、80代でも元気な人」(マガジンハウス新書)などがある。和田秀樹こころと体のクリニックウェブサイト、有料メルマガ<和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」>