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毎日新聞 2023/8/10 東京朝刊 有料記事 1301文字
福嶌教偉氏=永山悦子撮影
我が国における重症の呼吸器や循環器の病気への集学的な治療の進歩は著しく、重症患者の救命率や治療後の予後・QOL(生活の質)は大きく向上している。しかし、地域によっては、このような高度で専門的な医療を受けられないという現状がある。特に、小児の重症患者が集学的治療を受けられるのは、さらにごく一部の大都市に限られている。
国内の重症患者が平等に必要な医療を受けるため、全国どこに住んでいても迅速に高度・専門医療施設へ飛行機で搬送するネットワークを構築することが喫緊の課題だ。現状では、国内で患者搬送に飛行機を活用しているのは北海道だけである。
既にドクターヘリ体制は整備されているが、ドクターヘリには(1)都道府県境をまたぐような長距離搬送には適さない(2)ECMO(人工心肺装置)や補助人工心臓など重量の大きい医療機器を装着した患者を搬送できない(3)夜間や悪天候の時は運航できない(4)搬送中に高度な集中治療を実施できない――などの課題がある。これらを解決するためには、飛行機を用いた搬送が必須となる。
そこで、我々はNPO法人「日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク(Japan Critical Care Jet Network=略称JCCN)」を設立した。「全国で運用するには国の政策として進めるべきだ」と訴えてきたが、今年の「骨太の方針」には盛り込まれなかった。
ただし、骨太の方針では、次元の異なる少子化対策として、「こども未来戦略方針」に基づいた抜本的な政策の強化を図るとしている。そこに書かれている「社会全体の構造や意識を変える」「全てのこども・子育て世代を切れ目なく支援する」という目標や、「少子化対策・こども政策の抜本強化」を実現するには、地域の医療機関では提供できない医療を必要とする小児を、飛行機によって高度・専門的医療が実施可能な施設に搬送し、救命するJCCN体制の確立が欠かせないと考える。それは安心・安全な地域社会振興の基盤的な要素ともいえるだろう。
実際、日本小児循環器学会などの調査では、2017~22年の6年間で、飛行機による患者搬送が必要と判断された小児は226例あった。北海道以外が107例あり、そのうち医療用飛行機で移動できたのは自衛隊の「航空機動衛生隊」で搬送された3例だけだった。残る症例のうち3例では、搬送のハードルが高かったことから患者が亡くなっている。すなわち、子どもを安心・安全に育てるためには、国内のすべての子どもが平等に高度・専門的医療を受けられるシステムの構築を急がねばならないということだ。
このような現状において、NPO法人JCCNと小児の重症疾患を扱う学会が連携し、公的な競争的研究資金や寄付を募り(https://www.npo-jccn.website)、来年度から小児患者だけでも飛行機搬送できるようにする事業を始める計画だ。飛行機搬送を要する小児の実態調査も実施する。JCCNの構築への温かい支援をお願いしたい。
■人物略歴
福嶌教偉(ふくしま・のりひで)氏
心臓血管外科医。長く小児を中心とする心臓移植医療に取り組んできた。