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毎日新聞 2023/8/22 東京朝刊 有料記事 646文字
藤田彰一(ふじた・しょういち)さん(61)
「社会に今もある、さまざまな差別や偏見をなくしたい」。2003年に84歳で死去したハンセン病回復者の作家、島比呂志(ひろし)さんの生き方を語り継いでいる。島さんはハンセン病国家賠償訴訟の原告の一人で、01年に熊本地裁で国の隔離政策は違法との判決を勝ち取った。
島さんと同じ香川県観音寺市出身で、県立観音寺第一高の後輩でもある。日本史の教員として母校に戻った05年、島さんが存命の頃から同窓会名簿で物故者とされていたことを知った。「自分の無知と無関心がトゲとして心に刺さ」り、島さんの研究を始めた。
島さんは発症して東京農林専門学校(現東京農工大)助教授を辞し、鹿児島県の国立療養所で約半世紀を過ごした。文芸同人誌「火山地帯」を主宰し、強制不妊手術などの人権侵害を告発。代表作の1980年の小説では療養所を小国に例えて「この国では滅亡こそが国家唯一の大理想」と風刺した。
島さんが願った「正しく知り、忘れずに伝えること」を胸に、ハンセン病や差別の実相を、人権を考える授業や講演で伝えてきた。島さんの養女や文学仲間らを訪ね、作品の行間にも迫った。信頼を得て、未発表の手紙などを託されるようになった。
現在は香川県立香川西部支援学校で教える傍ら、島さん没後20年の今年から観音寺第一高の生徒たちによる島さんの研究の指導にもあたる。手紙の本格的な分析はこれからだ。「本にまとめ、後世につなぐのが私の使命です」。人間回復の火は消さない。文と写真・鶴見泰寿