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以前の記事で、工場で高度に加工され、多くの添加物が含まれる「超加工食品」をたくさん食べる人は、少ない人に比べて、さまざまな病気にかかるリスクや健康状態が悪化するリスクが高まることを取り上げました。
改めて解説すると、超加工食品とは加工の性質や目的、程度によって食品を分類しよう、という2009年に提唱された新しい考え方に基づく食品分類NOVAの一項目です。この分類では、食品を四つに分けます。
(1)未加工、または加工が最小限の食品(野菜や穀物、肉、魚介類、卵、牛乳など)
(2)台所にあるような調味料(砂糖や塩、酢、オイル、ハーブ、スパイスなど)
(3)食品の保存性を高めたり、おいしくしたりするためオイルや糖分、塩を添加した加工食品(パンやチーズ、豆腐、塩漬け肉や缶詰の野菜類など)
(4)工場で高度に加工され、多くの添加物を含む超加工食品(ソフトドリンク、炭酸飲料、ポテトチップス、チョコレート、キャンディー、アイスクリーム、甘い朝食用シリアル、スープ、チキンナゲット、ホットドッグ、フライドポテトなど)
超加工食品は、安くて便利で、おいしいものが多く、積極的にブランド化され、魅力的に包装してあり、大規模に宣伝もされるのが特徴です。栄養価は低いものが多いです。
ただし、超加工食品といっても、その種類は多岐にわたります。そこで、ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の研究者らは、どんな種類の超加工食品が、最も心血管疾患に悪い影響を及ぼすか調べました。結果は2024年9月の医学誌「The Lancet Regional Health-Americas」に報告されています。
研究には、米国の成人20万人以上(*)が参加しました。参加者は 1980 年代から 1990年代初頭にかけて詳細な食事に関する最初のアンケートに回答し、その後約 30 年間にわたり2~4年ごとにアンケートの回答を続けました。この研究は、超加工食品と心臓の健康を調べた最大規模かつ最長期間の研究の一つです。研究の参加者のほとんどは白人で、医療従事者として働いていました。
(*)データは、看護師健康調査(NHS、参加者数7万5735人、開始時の平均年齢50.8歳)、看護師健康調査II(NHSII、同9万813人、同36.7歳)、医療専門家追跡調査(HPFS、同4万409人、同53.4歳)の三つの疫学調査を使用しました。白人の参加者の割合は、NHSでは97.7%、NHSIIでは96.4%、HPFSでは94.9%です。
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超加工食品を多くとると心血管疾患リスクなどが高まる
まず超加工食品全体を見たところ、摂取量が多いと、心血管疾患や冠状動脈性心疾患の発症リスク、および脳卒中のリスクが高いことが分かりました。
喫煙、家族歴、睡眠、運動など参加者それぞれが有するリスク要因を調整して調べると、研究期間中に超加工食品の摂取が最も多かった人は、超加工食品の摂取が最も少なかった人に比べて、心血管疾患を発症する可能性が11%、冠状動脈性心疾患を発症する可能性が16%高まりました。脳卒中のリスクは、最も多く摂取した人でわずかに高くなりましたが、有意な差ではありませんでした。
さらに、研究者らは、この結果を他の19 件の研究の結果と組み合わせて、約125万人の成人を対象に追加の分析を行いました。
すると、超加工食品を最も多く摂取した人は、最も摂取量が少ない人に比べて、心血管疾患を発症する可能性が17%、冠状動脈性心疾患を発症する可能性が23%、脳卒中を発症する可能性が9%高まることがわかりました。
超加工食品のうち、心臓に最も悪いものは
次に、特定の種類の超加工食品が他の種類の超加工食品よりも心血管疾患と関連しているかどうかを分析しました。研究者らは、四つの段階(全食品摂取頻度アンケート項目リストを作成する、食品をNOVA分類へ割り当てる、再確認と不一致項目を絞り込む、専門家と議論する)を繰り返しながら、独自に超加工食品を次の10のグループに分けました。(この四つの段階の評価のため、ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の研究者らの超加工食品の分類は、NOVAとは少し異なる場合があります。この点について論文には詳細な説明はありませんが、筆者による推測を(*)として追記します)
https://ars.els-cdn.com/content/image/1-s2.0-S2667193X24001868-mmc1.pdf
①パンとシリアル:朝食用シリアル、ライ麦パン、全粒粉パン、イングリッシュマフィン、ベーグル、ロールパン、白パンなど
*ここでのパンは、工場で大量生産される加工度の高いタイプのパンと考えられます。
②ソース、スプレッド、調味料:クリームチーズ、ケチャップ、マーガリン、マヨネーズ、乳製品不使用のコーヒーミルク粉末、サラダドレッシング、サルサ、しょうゆ、スプレッドバターなど
*ここでの調味料は、工場で大量生産される加工度の高いタイプと考えられます。
③包装された甘いスナック菓子とデザート:チョコレートバー、朝食用バー、ブラウニー、クッキー、ドーナツ、エネルギーバー、マフィンまたはビスケット、ケーキ、缶詰の桃、缶詰の梨、ジャム、ゼリー、パイなど
④包装された風味のあるスナック:塩味のスナック(ポップコーン、クラッカーなど)
⑤砂糖入り飲料:セブンアップ、コーラなどの炭酸飲料、乳製品入りコーヒー飲料など
⑥加工された赤身の肉、鶏肉、魚:ベーコン、ソーセージ、サラミなど
⑦すぐに食べられる/温めることのできるミックス料理:チャウダーまたはクリームスープ、フライドポテト、ピザ、缶詰にされた調理済みスープなど
⑧ヨーグルト/乳製品ベースのデザート:人工甘味料入りヨーグルト、ニュートラスイートなしのフレーバーヨーグルト、フローズンヨーグルト、アイスクリーム、シャーベット
⑨ハードリカー(蒸留酒):ウイスキー、ジン、ラム酒などの酒類
*ビール、ワインのような醸造酒は「加工」されたものとみなされます。一方、ウイスキー、ジン、ラム、ウオッカのように、発酵させた後に蒸留されたアルコールは、「超加工」とみなされます。
⑩人工甘味料入り飲料:カフェイン入り、カフェインなし、炭酸入り、炭酸なしの低カロリー飲料など
すると、10の超加工食品カテゴリーのうち、「砂糖入り飲料、加工肉、人工甘味料入り飲料」は、心血管疾患および冠状動脈性心疾患のリスクを高めました。逆に、「風味のあるスナック、シリアル、ヨーグルト/乳製品ベースのデザート」は心血管疾患および冠状動脈性心疾患のリスクと逆の関連が見られました。
どうして超加工食品は心臓に悪い!?
この研究では、「なぜ、超加工食品をたくさん食べると、心血管疾患や冠状動脈性心疾患、脳卒中のリスクが高まるのか」「特定の種類の超加工食品が他の種類の超加工食品よりも心血管疾患と関連しているのか」の原因は調べていません。ただし研究者らは、次のような点を考察しています。
(1)低い栄養価 一般的な超加工食品は糖分、脂肪や塩分を多く含むので、心臓病のリスクが高まることはよく知られています。これまでの多くの論文で、一貫して砂糖入り飲料や加工肉が心血管疾患と関連付けられており、人工甘味料入り飲料も同様です。
(2)包装の化学物質 超加工食品の製造および包装に使う化合物も、心血管疾患のリスクを高める可能性があります。プラスチックまたは金属容器に含まれるビスフェノールAは、糖代謝障害および糖尿病リスクを高めます。
(3)調理の過程で生じる物質 揚げたベーコンやマーガリンに含まれる終末糖化産物(糖質とタンパク質を同時に加熱することでできる部分)は、血管の内皮細胞を破壊します。朝食用シリアルやパンに含まれるアクリルアミド(炭水化物を多く含む原材料を高温(120度以上)で加熱調理した食品に含まれる)は動脈硬化を促す恐れがあります。
(4)添加物 多くの超加工食品に含まれるグルタミン酸ナトリウムは、動脈硬化を促進することが知られています。ドライフルーツ、ソーセージなどに含まれる亜硫酸塩による心臓組織の損傷、乳化剤の腸内細菌叢(そう)への影響、増粘多糖類の耐糖能障害やインスリン抵抗性、人工甘味料の動脈硬化促進も示されています。
日々の食生活には、「砂糖入り飲料、加工肉、人工甘味料入り飲料」をできるだけ避けて、果物、野菜、豆類、ナッツ、全粒穀物などほとんど加工されていない食品、加工が最小限の食品を取り込みましょう。
超加工された植物性食品は健康上の利点が消える
もう一つ注意すべきことは、植物性の食品は健康に良いものの、植物性食品が超加工化されると健康的ではなくなることです。
ブラジル・サンパウロ大学が主導し、英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンが参加した研究では、果物、野菜、全粒穀物、ナッツなどをほぼ自然のままの状態で摂取すると、心血管疾患に対する保護効果がありますが、肉代替品、フルーツジュース、ペストリーなどの超加工された植物由来の食品を摂取すると、心臓発作や脳卒中のリスクが高まることがわかりました。結果は2024年8月の医学誌「The Lancet Regional Health-Americas」に報告されています。
https://www.thelancet.com/journals/lanepe/article/PIIS2666-7762(24)00115-7/fulltext
https://www.imperial.ac.uk/news/254034/plant-based-upfs-linked-with-higher-risk/
研究者らは、英国全土の人々の健康と生活習慣を追跡してきた研究である英国バイオバンクの研究データを使用して、少なくとも2日間にわたって食事を評価したイングランド、スコットランド、ウェールズの40~69歳の11万8000人以上の人々のデータを調べました。これらのデータは、心血管疾患に関する情報を得るために医療記録とリンクされました。
超加工食品ではない植物由来の食品の摂取が10%増加すると、心血管疾患リスクが 7%低下し、心血管疾患関連死亡リスクが13%低下しました。逆に、植物から生まれた超加工食品摂取により、心血管疾患リスクが5%増加し、関連死亡率が12%増加しました。
大豆はヘルシーな食べ物ですが、超加工されたベジバーガーはもはや健康的とはいえません。繰り返しますが、果物、野菜、豆類、ナッツ、全粒穀物などを摂取する際は、ほとんど加工されていない食品や加工が最小限の食品にしましょう。
写真はゲッティ
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大西睦子
内科医
おおにし・むつこ 内科医師、米国ボストン在住、医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年4月から13年12月末まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員として、日米共同研究を進めている。著書に、「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側」(ダイヤモンド社)、「『カロリーゼロ』はかえって太る!」(講談社+α新書)、「健康でいたければ『それ』は食べるな」(朝日新聞出版)。