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人がエネルギーとして使う三大栄養素として、これまでたんぱく質と脂質の話をしてきました。残りは炭水化物です。普段、口にするものに炭水化物がどれだけ含まれていて、一日にどのくらい摂取すればいいのか、どうやってその量を把握すればいいのか知っていますか。炭水化物を巡る基礎知識について見直してみたいと思います。
炭水化物6割って多すぎ?
栄養バランスについて、たんぱく質:脂質:炭水化物=2:2:6の割合を目標にすることをこれまで推奨してきました。「炭水化物を6割もとって大丈夫なのか?」と心配される方もいるでしょう。
確かに、砂糖は炭水化物です。お菓子や甘い飲料に含まれる砂糖ばかり摂取していたら、なんだか危険な気がします。実際、その通りです。摂取エネルギー(カロリー)の6割すべて砂糖だとしたら確実に病気になります。
糖質は、単糖類(グルコース、フルクトース)、二糖類(ショ糖=いわゆる砂糖、麦芽糖)、オリゴ糖、そしてでんぷんです。注意すべきは糖類(単糖類と二糖類)で、摂取する目安は、1日の摂取カロリー全体の5%未満。たとえば、2000kcal摂取する人で、糖類は100kcal未満となります。糖質は1gあたり4kcalなので、1日25g未満(砂糖なら大さじ3杯弱、小さじ8杯強未満)が推奨されています。
栄養成分表示を見ると、わかりやすく「炭水化物=糖質+食物繊維」とあります。糖質だけでなく、食物繊維も含まれているので、炭水化物はしっかり摂取することが大切なのです。
栄養成分表示からいろいろ分かる
私はおやつに干しいもを好んで食べます。「健康に良いから」というのではなく、子どもの時から好きだったのです。栄養成分表示をみると、干しいも100gあたり5.9gの食物繊維を獲得できます。カロリーは303kcalです。
はたして多いのか、少ないのか――。ためしに、ポテトチップスと比べてみましょう。
ポテトチップス1袋60gあたりのカロリーは336kcalで、食物繊維の表示はありません。食物繊維の表示は推奨されていますが、義務ではないので、企業の判断で表示するかしないかを決めています。
消費者がぱっと見ると、なんだかカロリーの量は同じような気分になります。そこが企業側の作戦かもしれません。
ここで示した干しいもとポテトチップスとでは重さが異なります。二つを100gにそろえると、干しいものカロリーは303kcalに対し、ポテトチップスのそれは560kcal。ポテトチップスの方が、なんと1.8倍もカロリーが高いのです。成分表示をみれば、その原因が含まれている脂質の量の違いであることがわかります。
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ポテトチップスの方の記載になかった糖質と食物繊維の量(推定値)は、次の二つの式を使って計算することができます。
①糖質(g)={エネルギー総量(kcal)―脂質(g)×9-たんぱく質(g)×4}÷4
②食物繊維(g)=炭水化物(g)-糖質(g)
ただし、この式は干しいものように、糖質量と食物繊維量の記載がある食品表示にはあてはまりません。その場合は、食物繊維と炭水化物の量は別の方法で測定し、炭水化物の量から食物繊維の量を引いて糖質の量としています。
以下の表では、この式を使って計算した糖質と食物繊維の推定量を赤い文字で示しました。また、エネルギーの算定には、換算係数の4と2をそれぞれ掛けます。食物繊維の計算に活用してください。おやつの選び方の参考になるでしょう。
計算してみて私自身、驚いたことがあります。干しいも(100g)に含まれる食物繊維(5.9g)のカロリーは21.2kcal、食物繊維1gあたり3.6kcalもあったことです。
消費者庁の調査(*)によれば、食物繊維のカロリーは1gあたり最大でも2kcalと言われています。食物繊維は腸内細菌の善玉菌の働きによって酢酸、乳酸、酪酸が産生され、それが吸収されてエネルギーとなります。善玉菌が多いか少ないかによって、食物繊維の利用効率は異なります。太りやすい人は摂取した食材の利用効率が高いと考えてよいでしょう。
*難消化性糖質及び食物繊維のエネルギー換算係数の見直し等に関する調査・検証事業報告書(令和2年4月、消費者庁)
お酢を飲んだらどうなる?
酢酸のカロリーは1gあたり3.5kcalです。乳酸や酪酸にもカロリーがあります。レモンなど柑橘(かんきつ)系果実に含まれるクエン酸は1gあたり3.2kcalです。これらの酸味は有機酸と呼ばれています。適度に摂取することで身体に好影響があります。今後の研究テーマです。
製造・販売会社「ミツカン」によると、食酢には4.2~4.5%の酢酸が含まれています。食酢20mLで0.8~0.9gに相当します。
レモン果汁100gあたり約6.5gのクエン酸が含まれています。
食酢やレモン果汁を酢の物、ドレッシングに積極的に活用すると良いでしょう。
どの程度摂取したら良いかについてはよくわかっていません。私は食酢と柑橘果実果汁を合わせて1日あたり20~30mLを食事から摂取するよう心がけています。カロリーとしては10kcalにも達しない量です。
「糖質ゼロ」はカロリーゼロでない!
ビールはアルコール分を5%含みます。ビール1缶(350mL)を飲むと140~150kcalになります。これはアルコール(エタノール)1gあたり7kcalだからです。文部科学省の食品成分データベースによれば、ワインでは小グラス1杯(20mL)で90~100kcal、日本酒1合が200kcalです。おにぎり1個(100g)は170~180kcalなので、ほぼ同じカロリーになります。「糖質ゼロ」というのはアルコール以外の糖質を減らしただけで、1割程度カロリーは減るかもしれませんが、アルコール量はそのままなので、「カロリーゼロ」ではありません。これも企業側の作戦かもしれませんね。
お酒として摂取したカロリーもきちんと計算してください。
食物繊維、全粒穀物を優先してみて
炭水化物は細かく見ていくと、糖質、食物繊維のほか、有機酸、アルコールなどから構成されています。一つひとつのカロリーを気にしていたら、おちおち食事もとれなくなります。食事はおいしく、食べることが基本です。
わかりやすい食べ方を紹介します。炭水化物の中で大切な食物繊維の摂取を優先させましょう。食物繊維の摂取目標は1日21~22gです。朝、昼、晩の食事で1回7gの食物繊維の摂取を考えましょう。野菜に換算すると約300gです。なかなかそこまでは食べられません。野菜だけでなく、根菜(イモやゴボウ)、海藻、果物、全粒穀物(玄米・加工玄米・全粒麦・雑穀など)を組み合わせると良いでしょう。でんぷんを全粒穀物から取るようにすると、いっしょに食物繊維を取ることができます。全粒穀物の摂取目標は1日140~160gです(玄米・加工玄米の約1合に相当)。食物繊維は腸内の善玉菌のえさになります。口の中でどろどろになるほどよくかむことが大切です。一口30回では足りないです。私が咀嚼(そしゃく)回数測定器で確認したところ、ドロドロになるまで一口70~100回かかりました。
これに加えてたんぱく質不足にならにように注意すれば、食事の満足感は十分なはずです。たんぱく質の摂取目標は1日75~100gです。肉や魚を食べれば、脂質はもれなくついてきますので、脂質不足を心配する必要はありません。
健康への影響を考えると、制限すべき順序はアルコール、糖質のなかでも砂糖類となります。
デザートは食の楽しみの一つです。自分へのご褒美にありがたくいただきましょう。お勧めは果実です。食物繊維も豊富です。お菓子で言えば、わらび餅やくずもち、あんみつのような糖分の少ない素材に糖蜜をかけて食べるタイプがよいと思います。糖蜜の甘さの勢いで素材を食べるので、体にはいる砂糖分は少なくてすむからです。
アルコールには要注意
太りやすい人は、炭水化物の利用効率が高い人です。次の式でカロリー計算をすると良いでしょう。
炭水化物の総エネルギー=糖質(g)×4+食物繊維(g)×3+有機酸(g)×3+アルコール(g)×7
※糖質と食物繊維、有機酸の表示が無い場合は、
炭水化物(g)×4+アルコール(g)×7
で計算してください(アルコールのカロリーは必ず加えて!)
ビール腹は本当に起こります。脂質の多いスナック菓子をつまみにするのは極力避けましょう。
特記のない写真・イラストはゲッティ
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米井嘉一
同志社大学教授
よねい・よしかず 1958年東京生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。89年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。08年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、日本人間ドック学会評議員。医師として患者さんに「歳ですから仕方がないですね」という言葉を口にしたくない、という思いから、老化のメカニズムとその診断・治療法の研究を始める。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。