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玄米、マクロビ、オートミール…… それ、本当に体にいいの? 「健康的な食習慣」が糖質疲労を招く
山田悟・北里大学北里研究所病院院長補佐、糖尿病センター長
2024年11月23日
玄米やマクロビオティック、オートミールなど、「健康的」と思われている食べ物や食事法があまたあります。ところが、糖尿病専門医の山田悟医師は「糖質疲労(食後高血糖)を招き、取り組むことを避けたほうがいいものが多い」と警鐘を鳴らします。
世間でもたれているイメージとは異なり、体への悪影響が懸念される食べ物や食べ方とは――。詳しく解説してもらいました。【聞き手・倉岡一樹】
日本人にはびこる「黒い食べ物」信仰
「白米を食べるなら玄米の方が健康にいい」「食パンはだめだけど、ライ麦パンは体にいい」――。
日本人は「黒い食べ物」に対して健康的なイメージを持つ人が少なくないようです。糖質制限をしている人たちも同じで、もはや「信仰」に近いものすら感じます。
確かに、これら黒い食品は食物繊維を含んでいますから、精製された真っ白な食品よりはまだ「まし」なのかもしれません。そうした点に着目した食事法が「低GI食」です。
GIは「グリセミック・インデックス」の略で、同じ量の糖質を摂取した後の血糖値の上昇度合いを、50gのブドウ糖を「100」として相対的に表現した数値です。数値が低いほど、食後の血糖値は緩やかに上昇します。
とりわけ、日々主食としてお米を食べる日本人に根強いのが、精白されていない玄米を「健康的な食べ物」と見なす風潮です。中には、「玄米は白米より血糖値が上がりにくい」と主張する医師もいます。
確かに白米の周りについているぬかや胚芽には食物繊維やたんぱく成分が含まれており、血糖上昇を抑制する効果があります。しかし、玄米に占めるぬかや胚芽の比率が白米(胚乳)よりもかなり低いため、血糖上昇のブレーキ作用としては不十分です。
GIを精力的に研究している、豪シドニー大のジェニー・ブランド・ミラー博士がGI値に関する情報ウェブサイト(https://glycemicindex.com/)を開設しています。ミラー博士は玄米のブランドごとにGI値を調べていますが、白米(コシヒカリ)が89で、玄米(非特定)が87と、大きな差を感じさせません。
また、別の国際的なGIデータベースでも白米と玄米のGI値に大差はなく、中国産の米(非特定商品)は、白米が83±1、玄米は87±1と玄米のほうが高いです(注1)。ちなみに、日本のお米のデータはありません。
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食物繊維は、糖質と同じ炭水化物に分類されているものの、エネルギー量が少なく、血糖値を上げず、かつ消化を助ける働きもあるため、ダイエットに取り組む人は積極的にとるべき栄養素です。ただ、「食物繊維さえあれば糖質を食べても大丈夫」との「免罪符」にされている側面があるように思います。
フィンランドのライ麦パン=岡橋賞子撮影
先に紹介した玄米と同様、そばやライ麦パンなどの黒い食べ物に含まれる食物繊維の量は糖質と比べると微々たるもので、ほぼ用をなさないと考えられます。一方、炊いた大麦は水分を含みますから、同じ容積で比較した時には、糖質削減にはつながります。しかし、血糖値は上がりますし、「大麦だから食べても大丈夫」との免罪符にはなり得ません。
マクロビも健康効果に疑問符
また、炊いた後に冷やした白米は「レジスタント・スターチ(難消化性でんぷん)」が増えるため血糖値を上げにくい、と主張する人もいます。しかし、難消化性でんぷんが含まれる割合も非常に小さいため、「増える」としてもほんのわずかです。
実際、コンビニエンスストアのおにぎりは基本的に冷えていますが、私自身がそれらを食べると血糖値はかなり上がります(糖尿病の診断基準すれすれくらいの190mg/dl程度まで上昇します)。
また、GI値は糖質を多く摂取した時に差が出てくるもので、摂取量が少なければ、高GIであっても低GIであっても食後血糖値への影響には大きな差異がなかったとするデータもあります(注2)。
「低GI食品」とは、ブドウ糖50gで上がる血糖上昇の曲線下面積を「100」として、食品の糖質量を50gにして摂取した時の血糖上昇の曲線下面積が「55」以下のものを指します。私も、低GI食は価値があるものだと思っています。
しかし、日本でGI食の研究を主導する「日本Glycemic Index研究会」は、GI値を比較する基準をブドウ糖ではなく、あるメーカーのパックご飯にしています。
欧米でも当初はブドウ糖50gを100とした場合のGI値とは別に、白パンを基準にしたGI値を求めていた(注3)ので、日本で白米を基準にしたGI値を出したことは理解できます。しかし、そもそもパックご飯にも個体差がありますから、基準になり得ないのではないかと感じています。
実際、国際的なGIデータベースでの、ブランドごとに異なる白米や玄米のGI値を見ても、やはり基準はブドウ糖50gで統一していくべきだと考えます。その数値が提唱されるまで、日本の食品のGI値は「誰にも分からない」というのが実情だと思います。
先ほどもお話ししましたが、国際的なGIデータベースには日本の米のGI値が載っておらず、「せんべい(rice cracker)」が91±11と掲載されているだけです(注4)。一つの白米を基準食としていたがゆえに、ブランドごとの白米のGIを検討しようという研究が計画されてこなかった、ということなのだと思います。
また、玄米菜食主義の「マクロビオティック(マクロビ)」の食事も、健康効果には疑問符がつきます。そもそも、マクロビに関しては、陰陽論に端を発しており、医学的にその効果を実証した論文がほとんど存在しません。
例えば、私が専門としている糖尿病の分野では、イタリア・ローマのカンパス・バイオメディコ大学のグループが論文を出しているのですが(注5)、他のグループによる検証がなく、再現性が確認されていないのです。
ジャンクフードを中心に、もともとすさまじい量の糖質を摂取している人がマクロビに転換すれば、糖質量の軽減にもつながり、代謝学的な効果が出る可能性もあります。しかし、肉や魚はたんぱく質や脂質を多く含んでおり、こうした栄養素を摂取することは体にとって不可欠です。害があるわけでもありませんから、制限する理由が分かりません。
マクロビで積極的な摂取を勧められている食品の豆類や芋類は糖質が高く、かえって糖質疲労を起こすことになるかもしれません。一方、マクロビや菜食主義(ベジタリアン)には「殺生を嫌う」との思想が含まれる場合があります。その観点から取り組むことは否定しませんが、健康のためによかれと思って取り組むことには慎重になっていただきたいです(注6)。
オートミールも……
昨今注目を集めている「オートミール」も黒い食べ物の一つです。
オーツ麦(エン麦)を加工して食べやすくしたもので、「豊富な食物繊維(100g中約9g含まれており、玄米の約3倍あるといわれています)が血糖値の上昇を緩やかにする」と言う人もいます。
確かに、食物繊維があまり含まれていない米や小麦粉と比べると、血糖上昇を抑制する効果はあるかもしれません。しかし、ゆるやかな糖質制限「ロカボ」の視点で捉えると、ご飯やパンと同じ主食で糖質が多く、糖質疲労を招きやすい食べ物です。量を考えずに食べると、血糖値が急上昇しかねません。
オートミールは1食で30gほど摂取することが多いようです。この程度の量であれば、白米1膳と比べて糖質量を抑えられるため、主食の代替食にすることは「あり」だと思います。ただ、その量のオートミールだけで食事を済ませるとたんぱく質と脂質が不足しますし、食物繊維もさほど多いとはいえません。ぜひ、おかずをたっぷりと食べてほしいです。
食物繊維も、必ずしも主食から得なければならないわけではありません。野菜を食べれば、十分な量を得られます。
電子レンジで温めたオートミール=中川祐一撮影
いずれにしても、オートミール「だけ」を食べるのは健康食といえません。あくまで糖質を多く含む主食です。糖質がやや控えめで、食物繊維がわずかに多いため、「白米よりやや有利」という程度に過ぎません。「これさえ食べていれば完璧」とは思わないでいただきたいです。
黒い砂糖は白砂糖と差がない
黒糖や三温糖、和三盆のような「白くない砂糖」を、「健康的」と捉える向きもあります。玄米もそうですが、どうも「精製されたものの方が、問題がありそう」と考える方がいらっしゃるようです。本当にそういえるのでしょうか。
白くない砂糖には、味に関してのメリットがあると思います。和菓子屋さんが味にこだわって和三盆や黒糖を使う例は枚挙にいとまがありません。しかし、血糖や体に対するメリットは、証明がありません。
私たちが日常生活でよく使う白砂糖や角砂糖、グラニュー糖の100g当たりの糖質量は100gです。つまり、100%純粋な糖質です。一方の黒糖は、純度こそ低いものの、カリウムやカルシウム、鉄などが含まれているため、100g当たりの糖質量は89・7gです。また、多少のミネラルを含む三温糖の糖質量は98・7gで、和三盆のそれは98・8gです。
甘い味つけをしたいなら……
黒糖は糖質がわずかに少ないのですが、和三盆と三温糖は白い砂糖とほとんど変わりません。これら白くない砂糖を「健康的」と過信してはなりません。通常の白砂糖同様に血糖値が大きく跳ね上がります。
山田悟医師=宮間俊樹撮影
一昔前に希少糖入りをうたうシロップが出回り、人気を博しました。確かに、血糖値を上げない「希少糖」がわずかに入っていたのですが、ほとんどが普通のガムシロップだったのです。ある糖尿病の患者さんはそれを喜んで使ったものの、血糖値が大きく跳ね上がりました。幸い、最近では希少糖ばかりで結晶化した商品が出ていますので、希少糖がお好きな方はこちらを利用すればよいでしょう。
そもそも甘い味付けに関しては、希少糖以外にも血糖値を全く上げない人工甘味料あるいは合成甘味料がありますから、それらを使えばよいのです。血糖値が上昇してしまう人にとっては砂糖を使うよりよほど健康的です。
重要なのは、何を食べると血糖値が上がるのか、自分で測ることです。しかし、血糖値の自己測定はまだ一般的でなく、ハードルがありますから、社会に普及し手軽に測れるようになることを望みます。
この話になると力が入ってしまい、少しばかり長くなりそうです。小麦粉を避ける「グルテンフリー」をはじめ、疑問を持っている食事法やダイエット法がまだありますので、来月に詳しくお伝えしたいと思います。
【参考文献】
注1 Am J Clin Nutr 2021; 114: 1625-1632, supplementary file #620 vs. #651
注2 JAMA 2014; 312: 2531-2541
注3 Am J Clin Nutr 1995; 62: 871S-890S
注4 Am J Clin Nutr 2021; 114: 1625-1632, supplementary file #883
注5 Nutr Diabetes 2016; 6: e222
注6 J Cancer 2016; 7: 131-135, BMC Med 2022; 20: 275
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1970年生まれ。94年慶応義塾大医学部卒業。同大内科学教室腎臓内分泌代謝研究室などを経て2002年に北里研究所病院へ転じ、07年から糖尿病センター長、24年から同院院長補佐を務める。我慢ばかりを強いるカロリー制限中心の食事療法で、向き合う糖尿病患者の生活の質が低下している現実と直面した。そんな中、食事をおいしく、おなかいっぱい楽しみながら血糖値を穏やかに保ち、肥満者の減量効果にも優れる、緩やかな糖質制限食と出合う。治療に積極的に取り入れるとともに、「ロカボ」と名付けて普及に努め、2013年に「食・楽・健康協会」を設立した。日本糖尿病学会糖尿病専門医。日本糖尿病学会指導医など。主な著書に「カロリー制限の大罪」「糖質制限の真実」「奇跡の美食レストラン」など。慶応義塾大医学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、星薬科大学非常勤講師。