この論文について、研究不正の調査は2回にわたって行われました。理研の調査委員会は、画像や図、合わせて4件を改ざんやねつ造の不正にあたると認定しました。

理研の発表によりますと、
▽小保方元研究員は「懲戒解雇に相当」、
▽一時期、理研で小保方元研究員を指導する立場にあった山梨大学の若山照彦教授は「出勤停止に相当」、
▽小保方元研究員が所属していた研究センターのセンター長だった理研の竹市雅俊特別顧問は「けん責」、
▽論文の著者に名前を連ねた理研の丹羽仁史チームリーダーは「厳重注意」としています。
では、STAP細胞の研究不正問題で、何が明らかになったのか見てみます。
論文で、STAP細胞はマウスの細胞を弱い酸性の液体に浸すという刺激で作製され、あらゆる臓器や組織になる万能性があるとされました。

論文に研究不正があっても、STAP細胞は存在するのではないかということで、検証実験が行われました。理研の検証チーム、そして小保方元研究員本人も検証チームとは別に実験を行いましたが、いずれもSTAP細胞は作製できませんでした。

それでは、STAP細胞とされていたのは何だったのか。2回目の調査委員会の調査で姿がはっきりしました。
研究室などにSTAP細胞を培養して作った「幹細胞」が4種類、残されていました。その細胞を遺伝情報、つまりDNAのレベルまで詳しく解析しました。
その結果、これらにはES細胞が混入していたことがわかりました。ES細胞は、すでに知られている万能細胞です。
STAP細胞が万能性を持つ根拠となっていた
▽様々な組織になる写真や
▽全身が緑に光るマウスの胎児の実験も
分析の結果、ES細胞が混入した可能性が高いとされました。
つまり、何か新しい現象が起きていたのではなく、ES細胞を新たな万能細胞、すなわち「STAP細胞」としていたというわけです。
論文の主張は、ことごとく否定されました。
しかし、調査で肝心なことは、明らかになりませんでした。
これだけES細胞の混入があると、何かのミスや偶然が重なったというのは不自然です。ES細胞は故意に混入されたと考えられます。
ただ、実験が行われた研究室に入れた人物は多く、小保方元研究員はじめ関係者はいずれも混入を否定したということです。
誰が何の目的でES細胞を混入したのか、調査委員会は調査の限界でわからなかったとしています。

結局、ES細胞を意図的に混入するという論文の結論を全く誤ったところに導く行為が、人物を特定できていないことから研究不正とされませんでした。
理研は「われわれには捜査権がなく強制的に調べることができない」として、ES細胞を盗んだ窃盗や偽計業務妨害といった面から刑事告発を検討しているとしています。そして、小保方元研究員に研究費を返すよう請求することを検討しているということです。
小保方元研究員は「STAP細胞はあります」と主張した記者会見以来、公の場で発言していません。なぜ、結論がここまで否定される事態になったのか。まだ話していない新たな事実はないのか。研究を中心になって進めてきた者として、説明責任を果たすことが求められます。
このように不明確な部分が残されたままである点について、「理研はもっと徹底した調査ができたのではないか」という批判の声も聞かれます。

「STAP細胞はES細胞ではないのか」。その指摘は1回目の調査委員会が調査を行っている段階からあがっていました。しかし、この調査委員会は、疑義のうち6つの項目についてしか調査しませんでした。「概ね150日以内」という調査期間を大きく残して、40日あまりでの結論でした。
理研は、6項目以外の疑義を調査することについて、論文が取り下げられることなどを理由に消極的でした。結局、2回目の予備調査が始まったのは6月の終わりです。
理研は、2回の調査を終えた12月末の記者会見で「できる限りの調査は行った」と話しましたが、果たしてそう言えるのでしょうか。
確かに2回目の調査では、DNAレベルの解析を行う高度な検査機器を使うなど、徹底した分析が行われたと思います。
しかし、そうした調査を始めるまでに時間がかかり、証拠となる実験データの保存が十分できなかったのではないかとする指摘がでるのも当然ではないかと思います。もっと「実効性」のある調査を行えたと思います。
問題の全容を明らかにしようという姿勢が感じられなかった対応が、理研に対する不信を招き、問題をより大きくしたといわざるを得ません。本当に「できる限りの調査」だったのか。もう一度、考えてほしいと思います。
そして、もう一つ。これだけ、はっきりと結論が否定される研究や論文の問題点を共同研究者や理研の関係者が、なぜ誰も発表前に気づかなかったのでしょうか。

その理由については、様々に指摘されています。
▽小保方元研究員の実験結果の加工していない、いわば「生データ」をほかの研究者が確認していないこと、
▽実験結果に疑問点があっても、それを追究しないこと、
▽特許や研究費を獲得するために、論文発表を急いだこと、
▽共同研究者が自分の担当した部分以外のチェックをせず、論文全体を把握していた人は、わずかだったこと。
科学を志そうとする人、その多くは自然科学の謎を解き明かすことに魅力や喜びを感じて科学者になったのではないでしょうか。
しかし、今あげた理由は、それとは正反対の行動です。
STAP細胞があったとしたら、これまでの科学の常識を大きく変える発見です。そうであればあるほど、生データを繰り返し確認するでしょうし、誰よりも自分が納得したいと思って、小さな疑問点でも解消しようと取り組むのではないでしょうか。特許や研究費を獲得することも大切ですが、確信を持ってから論文を発表するのは当然のことでしょう。
何人もの科学者が、科学者としての大切な姿勢を見失ってしまったということになります。
そして、それは調査に消極的だった理研の組織も同じだと思います。処分を受けた研究者とともに、こうした状況を作り出してしまった責任は、理研の理事長や理事にもあります。
今回の問題で、理事は、理事長から厳重注意を受け、理事長も含め給与の一部を自主返納し、責任を明確にしたとしています。

しかし、その時期は2014年10月、2回目の調査が行われている最中です。ES細胞の混入という論文の結論が否定される調査結果が出される前の段階で、どういった責任を取ったと理解したらいいのでしょうか。
理研の対応は、依然として疑問に感じます。
理研では、第三者で組織する委員会からの提言などを受けて、再発防止に向けた取り組みを進めているとしています。
「何を求めて科学者になったのか」。
ひとりひとりの研究者が、もう一度そこに立ち戻って研究にのぞむこと。また、そうしたことができる組織改革ができているのか。
研究者とともに、引き続き理研の姿勢が問われています。
(中村 幸司 解説委員)