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毎日新聞 2023/10/1 東京朝刊 有料記事 2213文字
<気になる>
ドイツ政府が、個人が嗜好(しこう)品として少量の大麻を所持したり、栽培したりすることを認める法案を8月に閣議(かくぎ)決定しました。欧米では、オランダやカナダで大麻の使用が認められています。一方、日本では20代以下の大麻による検挙者数(けんきょしゃすう)が増加傾向にあり、若者の間に大麻汚染が広がっています。なぜ海外では危険な薬物を合法化する動きがあるのでしょうか。
◆ドイツで解禁されるって?
流通管理し、闇市場壊滅が狙い
なるほドリ そもそも大麻ってどんなものなの?
記者 大麻草はアサ科の一年草で、穂や葉に含まれているテトラヒドロカンナビノール(THC)という脳に作用する成分を乱用すると幻覚(げんかく)を見たり、記憶障害(きおくしょうがい)や精神障害を引き起こしたりする弊害(へいがい)があります。特に脳が成熟過程(せいじゅくかてい)にある25歳までの子供や若者への影響は大きく、健康被害や学習能力の低下が指摘されています。
Q そんな危険性があるのに、なぜドイツは合法化しようとしているの?
A ドイツでは既に限定的な医療目的での大麻利用を合法化しています。現在、嗜好用の大麻は違法ですが、多くの人が大麻を所持したり、吸ったりしています。ドイツ政府によると、過去1年間に大麻を使用した18歳以上の成人は約450万人。2021年には12~17歳の若者でも13人に1人が過去1年間に使ったことがあるという調査結果があり、社会にはびこっているのが現状です。
闇市場(やみしじょう)には行政の管理が及ばないため、未成年が手を出したり、不純物を混ぜてかさ増しされた大麻を使って健康被害がさらに高まったりしています。
ショルツ独政権は合法化することで流通市場を管理下に置いて闇市場を壊滅(かいめつ)させ、犯罪組織(はんざいそしき)の資金源(しきんげん)を断(た)つことを目指しています。ただ医療団体などは健康に悪影響を及ぼすとして法案を批判(ひはん)。また実効性(じっこうせい)を疑問視する声もあります。
Q いつから大麻が認められるの?
A 法案は連邦議会(下院)と連邦参議院(上院)で審議(しんぎ)され年内にも成立、24年初めから施行される見通しです。施行されれば、18歳以上の成人は個人消費のために大麻を最大3株栽培し、25グラムまで所持することが認められます。個人で栽培する以外にも、政府の認可を受けた非営利団体の会員となれば、団体で共同栽培した大麻を入手することも可能になります。
商業用の売買は当面は禁止されますが、一部モデル地区で専門店販売の実証実験も行います。
◆ほかの国はどうなの?
増加傾向だが、中毒など深刻化
Q 合法化している国はほかにもあるの?
A オランダが1976年に「コーヒーショップ」と呼ばれる専門店で個人使用向けの大麻販売を解禁しました。厳密(げんみつ)には合法化ではなく「非犯罪化」にあたります。つまり違法ですが、1回の販売は5グラム以内、未成年には販売しないなど所定の基準を守ることを条件に、販売や使用が容認され、刑事罰(けいじばつ)は科せられません。
合法化という点では南米ウルグアイが13年、国家として初めて、嗜好用の大麻の栽培・販売・消費を合法化しました(小売店での販売は17年から)。主要7カ国(G7)ではカナダが初めて18年に合法化に踏み切りました。
米国は連邦法で嗜好用の大麻を禁じていますが、12年にワシントン、コロラド両州で住民投票の結果、合法化が決まりました。その後も合法化する州が増え、薬物検査などを手がける企業「DISA」の集計では、今年9月1日現在、全米50州のうち23州と首都ワシントンで合法化されています。その他にも医療用に限って使用を認める州や刑事罰の対象としない州が多くあります。
21年には欧州連合(EU)で初めてマルタが個人使用を合法化。23年6月、ルクセンブルクも続きました。
Q さらに世界で合法化が進むのかな?
A そうとは限りません。例えば、タイは22年6月に大麻を麻薬リストから除外し、一般家庭でも栽培が可能になりました。使用は医療目的に限られていますが、嗜好目的で使う人が後を絶たず、未成年者が過剰摂取(かじょうせっしゅ)で病院に運ばれたり、中毒患者が増加したりするなど深刻な社会問題になっています。
大麻の流通を管理するためといっても、正規品が高額なら一部の人は、正規品と比べて安価な非正規品に流れるのではないかとみられています。国連の国際麻薬統制委員会の調査では、合法化された国でも違法な流通品の割合はカナダで40%、ウルグアイで50%近くに達しており、本来の目的である闇市場の壊滅につながるかは不透明です。
Q 日本はどうなの?
A 日本では大麻取締法で大麻の所持や栽培を禁止しています。日本への大麻持ち込みも処罰対象です。大麻は、中毒性の強いヘロインや覚醒剤などの「ハードドラッグ」の入り口となる危険もあります。他国での合法化によって大麻使用への心理的なハードルが下がる懸念(けねん)もあり、日本政府は「海外で合法化されたから安全という情報は誤りです」と警鐘(けいしょう)を鳴らしています。(ベルリン支局)<グラフィック・平山義孝>
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