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毎日新聞 2023/10/1 東京朝刊 860文字
深刻な企業統治の不全が経営危機につながった。上場企業は他山の石としなければならない。
国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)などによる東芝の株式公開買い付け(TOB)が成立した。1949年から上場している東芝の株式は、年内にも上場廃止となる見通しだ。
経営混乱のきっかけは、2015年に表面化した不正会計問題だった。発覚前までは企業統治の優等生と見られてきたが、実際には経営陣が現場に過度な目標を強い、業績の粉飾がはびこっていた。上意下達の企業風土が明らかになり、東芝ブランドは地に落ちた。
17年には米国の原子力発電事業で巨額の損失が発生して債務超過に陥った。当時の経営陣は上場廃止を避けるため、6000億円の増資に走った。これが企業に収益還元を強く迫る「物言う株主」を呼び込む結果となった。
物言う株主の要求に経営は翻弄(ほんろう)され、収益の柱だった半導体メモリーなど主力事業を次々と売却していった。
経営陣と株主の対立も深刻化した。20年の株主総会では会社方針と異なる株主提案の成立を阻止しようと圧力をかけたことが判明した。経済産業省の関与も指摘された。外部からの経営介入への警戒心が暴走し、市場ルールを無視した行為につながった。
東芝は今回、TOBを通じて非上場化することで、物言う株主の束縛から逃れる道を選んだ。腰を据えて中長期の経営再建策を検討できる利点はある。ただ、この8年間で露呈した欠点を修正できなければ再生はおぼつかない。
発電やインフラ、防衛関連など社会的に重要な事業を抱えている。東京電力福島第1原発の廃炉作業も担う。会社全体の収益力が低下する中で、これら既存事業を支えるためには新たな稼ぎ頭の育成が不可欠だ。
一連の不祥事は、日本企業全体の信認をも揺るがした。経営陣は猛省して迷走を招いた要因を探り、企業統治の抜本的な見直しを進めなければならない。
TOBには、国内企業約20社も参加した。JIPを含む新たな株主には、東芝の経営改革に向けた取り組みを厳しくチェックする責任がある。