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毎日新聞 2023/11/28 東京朝刊 有料記事 1009文字
<ka-ron>
「ハマスを破壊するまで戦争を続ける」
イスラエルのネタニヤフ首相はパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスを消し去るまで戦う、と主張している。
だが少なくともイスラエル国内では、こうした発言はハマスの攻撃で犠牲になった市民や連立内閣の極右政党など向けの「ポーズ」との見方が強いようだ。
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なぜならそこには、「破壊するってどうやって?」という大きな疑問が残されているからだ。
イスラエルの主要紙ハーレツは24日の電子版で、「ネタニヤフ首相もガラント国防相も、どうやって実現するかを知らないまま、(ハマス破壊を)約束している」とやゆしている。
確かに威勢の良い言葉とは裏腹に、イスラエル軍はハマスのもう一つの「本丸」とされる北東部シュジャイヤ地区にはまだ手をつけていない。地下に大きな軍事施設があるとされ、2014年の50日戦闘でも激戦地になった。
今後は南部に戦線を広げるとの観測もあるが、すでに200万人近い市民が避難している。その一角に避難地域を設けて市民を押し込めるとなれば、国際社会からのさらなる批判は免れない。
何よりイスラエル軍はすでに大半の大隊をガザに投入。それでも足りずに最後の大隊まで先週投入した模様で、人手が足りていない。
がれきの中からハマスが造ったトンネルの出入り口を見つけるのは至難の業で、時間もかかる。見つかっても内部にはさまざまなわなが仕掛けられているので、小型ドローンなどでまず慎重に内部を偵察してからでなければ入れない。
そこに始まったのが今回の人質交換だ。イスラエル軍もハマスもこれを機に一呼吸置いて戦略を練り直すだろう。双方の今後の出方でカギを握るのは内外の世論だ。
全面的な停戦を求める国際社会の声はかつてないほど高まっている。イスラエル国内も、当初の「ハマスを破壊せよ」から、「戦闘より人質解放優先」へと世論の潮目が移ろい始めているようだ。
今回の解放でハマスから逃れた市民の健康状態がひどく悪ければ、「報復」を求めるイスラエルの世論が高まるかもしれない。だが今のところ、市民の健康状態はおおむね「良好」だとイスラエルの病院は発表している。
米紙ワシントン・ポスト(21日電子版)はコラムニストの寄稿で、今回の人質交換が「出口」へとつながる希望的観測を記している。
「破壊」を目指せばさらなる犠牲が生じる。一時休戦を「出口」へとつなげてほしい。