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かゆい、赤い、乾燥する――暑い時期とは違って、冬特有の肌トラブルに悩まされる方も多いでしょう。意外と知られていないのが保湿剤の塗り方やお風呂の入り方。大人に知っておいてほしい、子どもの基本的な肌ケアについて具体的に解説します。
保湿は「たっぷり」「てかてか」が命!
子どもの肌ケアというと、まずは「保湿」を思い浮かべる方も多いはず。「赤ちゃんの頃から毎日保湿しています!」という方もいらっしゃいますよね。
ただし、日々の診察で親御さんにお伺いしていると、「保湿剤を塗る量」が圧倒的に少ないケースが少なくありません。
理想的な量は、とにかく「たっぷり」です。塗った後に「てかてか」と見えるぐらい塗ることが大切。これは医学的にはFTU(finger-tip unit=フィンガー・チップ・ユニット)という概念で、30年以上前から提唱されているものです。1FTUというのは図の通り、チューブ型の保湿剤を大人の人さし指の先端から第1関節まで絞り出した量。約0.5gになり、この量で、大人の手のひら2枚分を塗ると適切な保湿となります。
子どもの場合、たとえば生後6カ月までの赤ちゃんだと、1FTUの保湿剤の量で塗れるのは顔と首です。他にも腕、足、おなか、背中など全身に塗ろうと思うと、全部で「6FTU」、つまり「1FTU」の6倍の量で、約3gが必要になります。
市販薬でも処方薬でも、たとえば25gの保湿チューブがあったとすると、全身に1日1回塗っていれば8回で使い切る量です。1週間で25gのチューブを使い切るというと、かなり多いと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
子どもが成長するにつれて当然、保湿剤の量も増えていきます。たとえば6〜10歳のお子さんだと顔と首に塗るだけでも「2FTU」、全身に塗ると「約18FTU」が必要です。1日1回9gの保湿剤を使うことになるので、25gのチューブは約3回で使い切ってしまう量になります。
とはいえFTUという単位はなじみがなく、覚えるのも大変ですよね。ざっくり言ってしまえば、冒頭でお伝えした通り、とにかく「たっぷり」「てかてか」見えるぐらい塗りましょう、ということです。図のように「手の甲に塗った後、ティッシュを乗せて、そのまま手をひっくり返しても、そのティッシュが落ちずに貼り付いたまま」が目安です。
毎日の保湿、せっかく塗るなら、たっぷりと。同じ保湿剤、同じ回数でも、効果がアップするかもしれません。
保湿剤に医学的、絶対的な優劣は無し!
市販薬、処方薬ともに、たくさんの保湿剤があります。どの保湿剤がよいのか、選ぶ基準は気になるところですよね。
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結論から申し上げると「医学的に絶対これがよい!」というほどの強いエビデンスを持つものはありません。私自身、お子さんや保護者にとって使い心地がよく、適切な量を塗って効果が感じられるものであれば、それでよしとお伝えすることが多いです。
もちろん保湿に適した成分というのはあります。
保湿用塗り薬「ヒルドイド」=東京都千代田区で、内田幸一撮影
たとえばヒルドイドに含まれる「ヘパリン類似物質」は保湿成分の代表例です。他に尿素製剤(ケラチナミンコーワ、パスタロン、ウレパールなど)も保湿の効果が証明されています。市販薬か処方薬かに関わらず、これらの成分が含まれた商品であれば保湿効果が期待できます。
また、よく聞かれるのが「ワセリンやプロペトを塗っているのに、なかなかよくならない」というものです。ワセリンやプロペトは、どちらかというと「保湿」というよりは「保護」作用が強い成分です。ワセリンやプロペトをたっぷり塗っているのに効果がイマイチという場合は、上記の「保湿」成分が含まれる塗布剤に切り替えると、効果がアップするかもしれません。
ただし、ワセリンにも皮膚バリアーを改善させる作用があるのでは、という報告があります。離乳食による肌トラブルを防ぐため、食前に口周りに塗っておくのもお勧めです。また、ヘパリン類似物質や尿素製剤は赤みや傷のあるところに塗るとしみる、ヒリヒリする、赤みが強くなるなどの症状が出ることもあります。この場合は一時的に使用を止めて、代わりにワセリンやプロペトを使うことがあります。
一方でアメリカ小児科学会をはじめ、「使う人の好みや使用感を大切にしよう」という考えもあります。
一般的にローションよりもクリームタイプの方が保湿効果は高いと言われていますが、たとえば夏のお風呂上がりにベタベタしたクリームを塗ったり、塗られたりするのは不快な方も少なくないはず。暑い時期にはローションタイプをお薦めすることもあります。
どの成分や形態がよいか、悪いかではなく、必要に応じて使い分けること、また使い心地がよいかどうかが大切なのですね。
「1日1回」か「1日2回」か
また、「塗る回数は1日1回よりも、1日2回の方がよいですか?」というご相談も多く寄せられます。結論から申し上げると、可能なら「1日2回」が理想ですが、あまりこだわらなくても大丈夫です。
というのも、さまざまな研究報告によって、「1日2回がよい」「1回でも効果がある」と意見が分かれているからです。
たとえば日本の論文では「1日1回よりは1日2回の方が保湿の効果があるだろう」としています。一方、アメリカ小児科学会としては「1日1回でも2回でもよい」というスタンスです。欧州のガイドラインでは「最低でも週に2回の保湿を」となっており、もっと少ない回数も許容されています。
これらの研究は、使用された保湿剤の種類や人種、居住地区による湿度の差などがあるため、どれが正解と言えるものではありません。日本の医療機関では「1日2回で」と言われることが多いかもしれませんが、忙しい育児の中で毎日、保湿剤を塗るのは大変ですよね。「1回しか塗ってないな」とか「今日は塗れなかったな」などと、あまり回数にこだわって罪悪感を感じる必要はない、ということです。
長風呂はNG! 10分未満で
肌ケアのポイントとして意外に知られていないのが、お風呂の入り方です。寒い時期はしっかりと湯船につかって体を温めて……というのが定石ですが、長風呂は肌トラブルのもとにもなります。
アメリカ小児科学会は「湯船につかるのは10分未満」を推奨しています。もちろん湯船につかることを否定しているわけではなく、汗や汚れをしっかり落とすことも肌ケアにはとても大切です。ただし長くつかりすぎると肌バリアーを弱める原因になるため、10分未満が推奨されているのです。
また、お湯の温度も高すぎない方がよい、というのが医学的見解です。具体的な温度について絶対的な基準はありませんが、たとえばアトピー性皮膚炎のホームケアとしては「38〜40℃」がガイドラインで推奨されています。特に42℃以上は肌バリアーを弱める一因となるので、推奨されていません。
大人にとっては「少しぬるいかな」と感じる程度の温度の湯船に10分未満でさっと入る。これが意外と大切な冬の肌ケアポイントです。
「保湿でアトピーを防ぐ」には明確なエビデンスが無い
しかし、しっかり保湿をしていても、お子さんの湿疹が改善せず、「アトピーなのかな?」と不安になる親御さんも多いものです。
その場合、まず冒頭にお伝えした通り、保湿剤の量を見直してみましょう。とにかく「たっぷり」「てかてか」塗るだけでも保湿効果が上がり、肌トラブルが改善することも少なくありません。
ただし適切な量で保湿していても、どうしても肌トラブルが起こりやすかったり、アトピー性皮膚炎と診断されたりするお子さんもいます。「保湿で絶対にアトピー性皮膚炎を防げる」という明確なエビデンスはないからです。
もちろん生後すぐから毎日保湿をすることで、ある程度、アトピー性皮膚炎のリスクを下げることができるという研究は複数、報告されています。とはいえ、それらの研究で使われている保湿剤の種類や塗る回数は異なりますし、何より「もともとアトピー性皮膚炎のリスクが高い子どもを対象とした研究」が多いのです。
たとえば両親や兄弟姉妹がアトピー性皮膚炎だと、お子さんもアトピー性皮膚炎になる確率が高くなることはさまざまな研究で報告されています。こうした家族歴のあるお子さんを対象に限れば、「保湿によってアトピー性皮膚炎をある程度、防ぐことができる」というコンセンサスは得られつつあります。
一方で、もともとアトピー性皮膚炎になる確率が高くないお子さんにとっては、保湿は逆に効果が低いのではないか――と指摘する研究報告もあります。両親がアトピー性皮膚炎などハイリスクではない赤ちゃんに対しては新生児から保湿剤を使用しても、アトピー性皮膚炎の発症を有意に予防することはできなかったという結果が出ているのです。ですから「あの時、保湿剤をもっと塗っていればアトピー性皮膚炎にならなかったのでは……」などと思い詰める必要はありません。
しかし、大人と比べて赤ちゃんや子どもの方が皮膚から水分が蒸発しやすいことは確かです。アトピー性皮膚炎を発症しやすいかどうかは家族性もあり、完全にコントロールできるものではありませんが、やはり無理のない保湿で肌トラブルを防げる可能性が高いというのはワールドコンセンサスになります。
いたずらに不安になるより、まず上記のような工夫をしてみて、改善しない場合に小児科や小児皮膚科にかかるというのでも遅くはありません。これから続く乾燥シーズンを上手に乗り切っていただければと思います。
<参考文献>
・American Academy of Pediatrics, healthy children.org, How to Treat & Control Eczema Rashes in Children
特記のない写真はゲッティ
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