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毎日新聞 2022/9/5 06:00(最終更新 9/5 06:00) 有料記事 2252文字
MOX燃料を積んでフランスから高浜原発に接岸した輸送船(左端)=2021年11月17日午前9時24分、大島秀利撮影
使用済み核燃料から分離したプルトニウムを日本の原発で再利用するため、燃料を加工してもらっているフランスの工場で不良品が続出している。日本の電力会社は「基準を満たしたMOX燃料だけを輸入している」と強調するが、プルトニウムを含む燃料の加工の難しさが改めて浮き彫りになっている。電力会社が明かさないそのコストにも大きく影響していそうだ。
プルトニウムは、ウラン燃料を原発で燃やすことで生じる。利用するには、まず使用済みウラン燃料を化学処理(再処理)してプルトニウムを分離する。加圧水型軽水炉用は、分離したプルトニウムとウランを混ぜて直径約8ミリの粒「ペレット」に焼き固める。これをウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)と呼ぶ。ペレット約320個を燃料棒の中に積み重ね、さらに燃料棒約260本を束ねて燃料集合体(高さ約4・1メートル)とする。
2021年11月17日午前、福井県高浜町の関西電力高浜原発の岸壁。地元や関西の市民が対岸で反対の声を上げる中、フランスで加工されたMOX燃料の集合体16体を積んだ船が到着した。関電の担当者は、ウラン燃料に比べての安全性について「問題ありません」と強調したが、記者の質問が燃料の価格に及ぶと「契約上の守秘義務があり、公表していません」と急に歯切れが悪くなった。
「ウラン燃料の8倍高い」
元米国務次官補(国際安全保障・不拡散担当)のトーマス・カントリーマン氏は18年10月の毎日新聞への寄稿で「ウラン燃料よりもMOX燃料は8倍高い」と経済的でないことを指摘している。実際これを裏付けるような記録がある。
財務省の貿易統計が示すMOX燃料の価格=ホームページから
それは財務省貿易統計だ。21年11月にフランスから高浜原発に輸入されたMOX燃料集合体16体の輸送費や保険料を含む通関額は175億3533万円と記録され、1体当たり10億9595万円だった。これに対し、2カ月前の9月に米国から高浜原発に輸入されたウラン燃料は、燃料集合体1体当たり1億2425万円を示していた。MOX燃料はウラン燃料よりも8・8倍高価だったことになる。
MOX燃料の費用は、各電力会社の電気料金に反映されることになる。関電は「原発の発電コストに占める燃料費の割合は1割程度。MOX燃料は、ウラン燃料の数倍程度高いが、MOX燃料の利用量が原子燃料利用量全体の1割程度であることから、MOX燃料の利用による発電コストへの影響はわずか」と説明する。
ただ、MOX燃料の割合を増やせば増やすほどコストがかさむことになる。
国産化でさらに高く?
建設中の日本原燃の使用済み核燃料再処理工場=青森県六ケ所村で2020年4月24日午前10時57分、本社機「希望」から北山夏帆撮影
今、このMOX燃料の国産化が進められようとしているが、国産化しても安価にならずむしろ高価になるという指摘がある。
計画では、使用済みウラン燃料を六ケ所再処理工場(青森県六ケ所村)で化学処理してプルトニウムを分離。次にプルトニウムを近くにあるMOX燃料加工工場で燃料化する。この両施設の建設コストなどが膨れあがり、国産MOX燃料の費用を押し上げている。
六ケ所再処理工場の建設費用は当初、7600億円と見込まれた。しかし、現在は3・1兆円に膨らみ、操業や廃止なども含めた関係事業費は14・4兆円と見積もられている。MOX燃料加工工場の事業費は2・4兆円とされる。
建設が進む日本原燃のMOX燃料加工工場=青森県六ケ所村で2020年4月24日、本社機「希望」から北山夏帆撮影
両施設の事業の実施主体として、国の認可で「使用済燃料再処理機構」が16年に設立された。同機構は電力会社から拠出金を集めており、拠出金の算定基準として、使用済み核燃料1グラム当たりの再処理などのための単価とMOX燃料加工単価を公表している。
これを基に、NPO原子力資料情報室(東京都中野区)が、再処理に関連する廃棄物の管理・輸送・処分費を差し引いてMOX燃料の費用を算出すると、関電の場合は1トン約71億円となった。ウラン燃料が1トン2億~3億円とされており、他の電力会社の国内MOX燃料も含めると20倍以上高価と見積もる。
これに対し、関電の担当者は「拠出金単価に基づいてMOX価格を算定していないので試算の妥当性を答える立場にない」と話している。
「使うほど損」米国は計画中止
米国では、MOX燃料があまりにも高くつくことを示す事態が起きた。建設の途上にあったMOX燃料加工工場が途中で放棄されたのだ。
コスト増大の問題などが浮上し建設中止になった米国のMOX燃料加工工場=米サウスカロライナ州サバンナリバー核施設で2016年6月20日撮影(サバンナリバー核施設ウオッチ提供)
米国は核拡散防止と経済性への疑問から、再処理をやめて使用済み核燃料は地層に直接処分する方針をとっている。ところが00年、ロシアとの核軍縮交渉に伴い、既に核兵器用に分離していたプルトニウム50トンを「余剰」と見なすことになった。プルトニウムは容易に地層に処分できないため、うち34トンをプルサーマルで処分することにし、MOX燃料加工工場を07年、サウスカロライナ州のサバンナリバー核施設内で着工した。
建設費と運転コストの見通しは02年時点で50億ドルだったのに、約15年後には6~10倍の300億~500億ドル(当時3兆4000億~5兆7000億円)に膨れあがった。MOX燃料を使う電力会社が現れないという状況の中で19年、計画中止が確定した。
鈴木達治郎・長崎大教授は原子力委員会の委員長代理時代(10~14年)、再処理して分離したプルトニウムの価値を計算した。すると、1グラム当たりマイナス40ドルとなった。「つまり、使えば使うほど損をするという計算結果だった」と明かしている。さらに、プルサーマル後の使用済みMOX燃料からプルトニウムを取り出すと、さらに大きなマイナスの価値になると鈴木教授は断言している。
【大島秀利】