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歳末のお酒シーズン 転倒による硬膜外血腫以外にも心配なけが
志賀隆・国際医療福祉大医学部救急医学主任教授(同大成田病院救急科部長)
2024年12月7日
11月の深夜、50代男性が歩道橋の下で左耳から血を流して倒れているという救急車からの連絡がありました。酔って転んだとみられ、呼び掛けても体をゆすっても反応がはっきりせず、手足は動くもののバタつくだけの状態との報告でした。血圧は180/110と高く、脈拍は1分間に50回とやや遅い状態でした。急を要すると判断し、受け入れを決めました。
頭のけがや窒息に注意
12月は楽しい忘年会の季節です。医療職でも年末のイベントがコロナ禍の前に戻ってきました。もちろん世の中の流れも同様で、救急外来にお酒関連のけがで運ばれる方も以前の状態に戻りつつあります。そうした中で、気をつけてほしいのは普段あまりお酒を飲まない方がお酒を飲んでしまうケースです。お酒の種類によらず、1杯に含まれるアルコールの量はだいたい15~18mlです。例えばビール1杯が350ml、ワイン1杯が150mlと量が違っていてもアルコール度数が違うため、計算すると、やっぱり15~18mlのアルコールを摂取していることになります。男性なら4杯以上、女性なら3杯以上飲んでしまった場合は要注意です。
お酒を飲みすぎると血圧が下がって歩行にふらつきが出てきて、転びやすくなります。そうすると、駅のホームや階段から転落したりしてさまざまなけがが起きます。また若い人同士が酔ってけんかとなり、殴られて搬送されることもあります。
こうした外傷に加えて、注意が必要なのが、泥酔によって起こる窒息です。酔って吐いたものが気道に詰まってしまうケースが多発します。泥酔した方は一人にしないようにしてください。そもそも泥酔することがないよう、お酒の量を制限してほしいのですが。
耳からの出血や「パンダの目」は危険信号
搬送された男性は呼び掛けに反応しないということでした。呼び掛けに反応しなかったり、指示どおりに手足を動かせなかったりした時にまず心配するのは、頭部の中の出血です。重症の場合は、左右の瞳孔の大きさが変わってきます。それ以外にもパンダのように目のまわりが黒くなっている、耳のうしろに青あざがある、耳から出血しているなどは、頭蓋(ずがい)底骨折のサインになります。
「パンダの目」とは、外傷の後に目のまわりが黒くなることです。頭蓋底を骨折すると、周辺の血管が損傷され、出血を起こします。出血は重力のために移動し、目のまわりにたまります。このためにパンダの目のようになるのです。頭蓋底の孔(あな)や薄い骨に骨折が発生した場合には、血管や脳神経が損傷される可能性があります。
頭を打って起こる硬膜外血腫
搬送された男性を診察すると、硬膜外血腫でした。人間の脳を覆っている3重の膜のうち、一番外側にある硬膜と頭蓋骨の間に血液がたまって、塊になった状態です。出血の多くは折れた骨が硬膜と頭骸骨の間にある動脈や静脈を傷つけたために起こります。
硬膜外血腫は頭を打ってすぐに起こるわけではありません。しばらくの間は問題がなく、その後調子が悪くなる意識清明期という期間が知られています。なぜそうなるかというと、頭蓋内に出血が十分にたまるまでは症状が出ないからです。意識が大丈夫な時間はばらつきがありますが、頭を打ってから3~6時間が一般的です。
硬膜外血腫で意識がおかしくなったり、頭痛や嘔気(おうき)、まひがあったりすれば、緊急手術が必要になります。早く手術すれば後遺症も少なくなるので、コンピューター断層撮影装置(CT)を使い、脳外科医、麻酔科医と連携して速やかに手術につなげることを救急医としては大事にしています。
この男性も気管挿管をして緊急手術となりました。手術後は集中治療室(ICU)で10日ほど治療を継続し、一般病棟に移ることができました。最終的に意識が回復して退院されました。
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帰宅の際には「セカンドインパクト」について注意を促しました。セカンドインパクトは、頭を打ってから約1週間以内に再度頭を打ってしまう状態です。そうすると、一度治療していても、重症化することがあります。
また1~2カ月後に、頭痛や不安定な歩行、軽いまひが出てきたり、認知症のように受け答えに異常が出るなどしたら、頭の中にじわじわ出血がたまる慢性硬膜下血腫の可能性があります。そうした点も注意しました。
さらに、視力低下やものが二重に見えるようになった場合、視神経の損傷や目の周囲の骨折を考える必要があります。その場合は再度の来院が必要です。
後に歯やあごの問題がわかることも
頭のけがをしていれば頭を重点的に診るのは当然ですが、酔っている場合、首や胸、おなかなど他の部位もけがをしていることがあるので、頭から足の先まで診察します。またあごや歯の損傷もよくあります。あごが開くかや食べ物をかんで痛みがないかも診るようにしていますが、受診時に何事もなく後になってから、かむ時の痛みに気づく場合もあります。その際も受診を勧めています。
写真はゲッティ
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しが・たかし 1975年、埼玉県生まれ。2001年、千葉大学医学部卒業。学生時代より総合診療・救急を志し、米国メイヨー・クリニックでの救急研修を経てハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。東京ベイ・浦安市川医療センター救急科部長などを経て20年6月から国際医療福祉大学医学部救急医学教授、21年4月から主任教授(同大成田病院救急科部長)。安全な救急医療体制の構築、国際競争力を産み出す人材育成、ヘルスリテラシーの向上を重視し、日々活動している。「考えるER」(シービーアール、共著)、「実践 シミュレーション教育」(メディカルサイエンスインターナショナル、監修・共著)、「医師人生は初期研修で決まる!って知ってた?」(メディカルサイエンス)など、救急や医学教育関連の著書・論文多数。