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毎日新聞 2023/12/16 東京朝刊 有料記事 1015文字
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今や岸田文雄政権がどうなるかより、自民党はどうなるのかに人々の関心はある。「悪夢のような民主党政権」と繰り返した安倍晋三元首相の言葉が、ブーメランとなって自民党に返ってきた。
旧統一教会問題や政治資金パーティー問題が安倍氏の死後、釜のフタが開いたように噴き出したのは偶然と思えない。「安倍さんが生きていれば」と嘆くファンもいるだろうが、その安倍氏本人がフタだったなら、話は逆だ。
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安倍時代は派手なスローガンと外交、総裁選を含む毎年の選挙で人々を飽きさせない「イベント政治」だった。祝祭気分を楽しんだ人も多かったから、辞める時は支持率が驚くほど上昇し、「安倍さん、ありがとう」の感謝ムードで写真集も売れた。
でも、その陰で反社会的宗教団体に肩入れし、子分が「安倍人気」で集めたカネを違法に流用していたと知れば、裏切られた気になる人もいるはずだ。功罪は別と切り分けるわけにはいかない。
パーティー裏金疑惑は、安倍派(清和政策研究会、旧清和会)が焦点となっている。森喜朗、小泉純一郎、福田康夫、安倍各元首相を輩出し、麻生太郎政権と民主党政権をはさんで、約20年間に計16年余も権力を握った「清和会支配」が、ようやく終わる。
ところで、4人の清和会首相のうち本物の会長だったのは森氏だけである。小泉氏は森政権の1年間、留守役だったが会長ではない。3人は派閥の長を経ず首相になった。町村信孝、中川秀直、細田博之各氏も会長・代表世話人だったが、実権は森氏にあった。退任後の安倍会長在任は8カ月。森氏との関係が穏やかでなかった内情は、政界の常識に属する。
安倍氏亡き後、すでに議員でもない森氏は、妙に生き生きと派閥運営に口をはさんできた。14日一斉に辞任・辞表提出した安倍派5人衆(松野博一、西村康稔、萩生田光一、高木毅、世耕弘成各氏)は全員、頻繁な「森氏詣で」を欠かさず、森氏も岸田人事への影響力を吹聴してきた。
政官界の必読放談だった地元・石川県、北国新聞の連載「総理(元職への敬称らしい)が語る」が、11月26日に突然終わった。ここでの発言通りなら、5人衆が要職を占めていたのは全て森氏のお陰らしい。派閥事務総長ポストも、森氏の意向抜きには決まらなかっただろう。裏金は何のため、どこへ使われたのか。
森氏は車椅子に乗っているが、11日に東京で開かれた歌手・谷村新司氏を送る会にも現れた。まだお元気そうだ。(専門編集委員)