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毎日新聞 2023/12/20 東京朝刊 有料記事 1020文字
<sui-setsu>
原子力発電が、二酸化炭素を排出しないエネルギーとして再評価されている。
先週閉幕した地球温暖化対策の国際会議「COP28」では、「脱・化石燃料」達成に向けた代替エネルギーの一つとして、原子力が初めて成果文書に盛り込まれた。
日本原子力産業協会は「クリーンエネルギーとしての原子力の最大限活用を訴求する」と歓迎した。対して、温暖化問題に取り組む環境団体は「原子力は気候危機対策を妨げる」と批判した。
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私は後者の意見に賛同する。
資源エネルギー庁によると、将来的に原発を利用するであろう国は、運転・建設中を含めて国連加盟193カ国・地域のうち44カ国にとどまる。
残る約150カ国・地域は所有していないか脱原発を決めている。それらの国が巨額の負担を伴う原発を受け入れるか。温暖化対策が遅れ、取り返しのつかない事態に立ち至る可能性さえある。
事故のリスクも無視できない。
1975年、米原子力委員会が学者に見積もらせた過酷事故の確率は「1基当たり10億年に1度」だった。「ヤンキースタジアムに隕石(いんせき)が落ちることを心配するようなもの」と強調された。だがその4年後、スリーマイル島原発で炉心溶融事故が発生する。さらに7年後にはチェルノブイリ原発、2011年には東京電力福島第1原発でも同様の事故が起きた。
「安全性が高まる」という触れ込みの次世代原発は開発の途上にあり、普及は見通せない。そんな状況で利点ばかりを強調するのは牽強付会(けんきょうふかい)と言うべきだろう。
稼働すれば生じる「核のごみ」の問題も未解決である。近づけば死に至るような放射能を帯びており、厳重に管理しながら10万年以上保管することが求められる。処分場を確保できているのは、この地球上でフィンランドだけだ。
在野の科学者として脱原発を訴えた高木仁三郎さんが書き残している。「現代科学技術の多くは、人々に便宜を与えるものではあっても、安全や心のやすらぎを保障するものではなく、破壊や不安の源泉であり続けている。核技術はその典型である」(「市民科学者として生きる」岩波新書)
問われているのは、「地球沸騰化」を自ら招いた現実を見据え、これまでとは本質的に異なる道を探る姿勢だ。
危機に便乗するように原子力への依存を強めるやり方は、賢明ではない。持続可能性という思想に逆らい、新たなリスクを背負い込み、過ちを繰り返すことにならないか。(論説委員)