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毎日新聞 2024/1/3 東京朝刊 有料記事 2832文字
石川県・能登半島の群発地震のケース(イメージ)
1日に発生した最大震度7の能登半島地震と、続いて日本海側に押し寄せた津波。地震は元々地震活動が活発な地域で起きた。気象庁や専門家は今後も同程度の地震が起きる可能性があるとして警戒している。
「揺れの強かった地域では地震発生から1週間程度、特に2、3日は最大震度7程度の地震に注意してください」。気象庁が2日に開いた記者会見で、鎌谷紀子・地震津波監視課長はこう呼びかけた。会見15分前にも震度5弱を観測し、大きな地震が続いている。
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石川県能登地方では、1日午後4時6分に震度5強の揺れが襲った4分後、一連の地震で最大となる震度7を観測。さらにその8分後には震度5強の地震が起きるなど2日午後5時半までに震度5弱以上の地震を11回観測した。緊急地震速報も13回発表された。
気象庁によると、過去に起きた大地震の1~2割では、発生後に再び同程度の地震が発生している。2016年の熊本地震では震度7の前震の約28時間後に再び震度7の本震が起き、大きな被害をもたらした。
1日に起きた最大震度7の地震について、気象庁は「前震や本震を区別できる段階ではない」とする。ただ、能登地方では22年6月に震度6弱、23年5月に震度6強を観測するなど3年以上にわたって地震活動が活発化しており、今後も警戒するよう呼びかけている。
石川県では4日にかけて警報級の大雨が降る可能性があり、土砂災害にも注意が必要だ。気象庁は「地震の影響で地盤が緩み、少ない雨でも土砂災害が起こる可能性がある。危険な場所には近づかないでほしい」としている。
1日午後11時5分には、気象庁が能登地方で起きた震度3の地震を誤って震度7と発表する事態も起きた。気象庁は約10分後に訂正し、加藤孝志・気象庁管理課長が記者会見で「被災地の皆様が大変な状況を過ごされている中で、誤って発表したことは大変申し訳ない」と謝罪した。
気象庁によると、震度3以上の地震が起きると、1分半後に速報値の地震情報が自動的に発表される仕組みだという。誤って発表された情報は最大震度7の地震とまったく同じ内容だった。原因は「調査中」としている。【島袋太輔】
地下水が誘発か
今回の能登半島地震のエリア
能登半島では2020年12月ごろから群発地震が起きてきたが、今回の地震ははるかに規模が大きい。どんなメカニズムが考えられるのか。
これまでの群発地震は、いずれも能登半島の先端近くで起き、マグニチュード(M)の最大は23年5月5日に起きたM6・5だった。
一方、今回の地震はM7・6と40倍以上のエネルギーがあり、余震も広範囲で起きたのが特徴だ。余震のエリアは、能登半島西側の石川県輪島市沖から、佐渡島(新潟県)西の沖合まで約130キロに及ぶ。
国土地理院によると、輪島市では約4メートルの隆起や、約1・2メートル西南西方向へのずれが観測された。
能登半島は、日本列島が東西から押される境界付近にあり、水平方向に圧縮されてできる「逆断層」が集中している。産業技術総合研究所によると、能登半島北側の沿岸には、M7級を含む地震を起こすとされる海底活断層が複数走る。政府の地震調査委員会は、今回の震源断層について、北東から南西に延びる長さ150キロ程度の逆断層とみられると発表した。複数の専門家が指摘するのが、地下の水(流体)が、断層運動を誘発した可能性だ。
加藤愛太郎・東大地震研究所教授(地震学)によると、一連の群発地震も、地下深くから上昇した流体が起こしている。断層の隙間(すきま)に入り込んですべりやすくさせたり、体感できないほどゆっくり断層をすべらせたり、長時間かけて岩石を変形させ、地震を起こすひずみをためたりしているとみられる。
加藤さんは「これまでの群発地震活動によって、ひずみがたまった領域の断層の一つに流体が入り込んですべりやすくさせ、地震につながった可能性がある」とみる。
石川有三・静岡大客員教授(地震学)によると、能登半島では水平方向に力がかかるため、地下深くから上がってきた流体が地上に抜けず、水平に広がりやすい。すると断層面に流体が入り込んでひずみがたまったり、割れやすくなったりするという。
後藤忠徳・兵庫県立大教授(地球物理学)は、10本弱の一連の活断層が一斉に動いた可能性があると指摘する。「動いた距離は数十キロ超にわたるのではないか」と話した。
ただし、動いたのが能登沖の海底活断層なのか、それとも未知の断層なのかはわかっていない。流体が関与したかどうかについても、気象庁は「わからない」と説明している。
平松良浩・金沢大教授(地震学)は「流体が関与したこれまでの地殻変動で、周りの断層に地震を起こしやすくする力がかかっていた。今回の地震はそうした力を受けて起きた地震だ」と説明。流体が断層に入り込んだとする見方は、あくまで可能性の一つだとみる。【垂水友里香、岡田英、菅沼舞】
大津波警報「東日本」以来
主な津波の観測点
大津波警報の発表は今回で6回目となる。2011年の東日本大震災以来で、日本海側では死者・行方不明者が231人に上った北海道南西沖地震以来、約30年ぶりだ。東日本大震災の印象から津波は太平洋側で起こりやすいと捉えられがちだが、専門家は「日本海でも過去に津波は起きており、津波が到達するまでの時間が早い特徴がある」と警鐘を鳴らしている。
大津波警報は、津波の高さが最大3メートルを超えると予想される場合に気象庁が発表する。「巨大な津波が襲い、木造家屋が全壊・流失し、人は津波による流れに巻き込まれる」という被害を想定している。
今回、津波は輪島港(石川県輪島市)で1日午後4時21分に最大1・2メートル以上を記録。北海道から九州まで広範囲で観測されている。
日本海には北海道や北陸、中国、九州の各地方沿いに活断層があり、過去にも大津波警報を発表した大地震が起きている。1993年の北海道南西沖地震(M7・8)、83年の日本海中部地震(M7・7)も活断層型とされる。
東京大地震研究所の佐竹健治教授(地震学)によると、日本海の活断層は陸地に近く、津波が到達するまでの時間が早い特徴がある。今回の津波も輪島港では地震発生と同時の午後4時10分に第1波を観測した。また、津波が朝鮮半島やロシア側の大陸で跳ね返り、再び日本へ押し寄せることがあるため太平洋側に比べて津波注意報の解除までに時間がかかりやすい。
東北大の今村文彦教授(津波工学)は「地震が発生してすぐに津波が来ると避難は困難となる。今後も地震で津波が起きる可能性があり、地震の復旧作業のために海岸にいる人は留意してほしい」と話す。
気象庁によると、輪島港では1・2メートルの津波が観測されて以降、正確な観測データが入ってこなかった。同県珠洲市の観測地点でも津波のデータが正確に入ってこなかった。気象庁は現時点で「原因不明」としており、調査する方針だ。【黒川晋史、安藤いく子】