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毎日新聞 2024/1/13 東京朝刊 847文字
靖国神社を参拝する旧日本海軍連合艦隊の元幹部ら=1954年2月21日
第二次大戦のA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社を自衛官が組織的に参拝していたとすれば、不適切だと言わざるを得ない。
参拝したのは、陸上自衛隊の小林弘樹陸上幕僚副長ら「航空事故調査委員会」の幹部ら数十人だ。年始に当たっての航空安全祈願だったという。
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自衛官でも、私人としての参拝であれば問題はない。だが、1974年には、宗教施設への部隊参拝や隊員への参加強制を「厳に慎むべきである」との防衛事務次官通達が出されている。
委員会は今回、「実施計画」を作成しており、組織的な行動だったことが強く疑われる。参加者の一部が公用車で神社を訪れたことも確認されている。
なぜ委員会のメンバーが集団で参拝したのか、同様の行為が過去になかったのか、防衛省は徹底的に調査しなければならない。通達に抵触する可能性があるとの認識がなかったのかも確認すべきだ。再発防止のため、調査結果を踏まえ厳正に対処する必要がある。
「東京招魂社」が起源の靖国神社には、幕末以降に殉職した軍人・軍属らが祭られている。戦前・戦中は軍国主義と結び付けられ、国民を戦争に駆り立てるために利用された。その反省を踏まえ、憲法には国や自治体が特定の宗教団体と結び付くことを禁じる「政教分離の原則」が盛り込まれた。
さらに78年には、戦争を指導したとして極東国際軍事裁判(東京裁判)で「平和に対する罪」に問われ、有罪となったA級戦犯14人が合祀された。
公人による組織的参拝は、政教分離原則との整合性が問われるだけでなく、「不戦の誓い」を政府がないがしろにしていると見られかねない。首相や閣僚の参拝は、近隣諸国などの強い反発を招いてきた。
能登半島地震の被災地では、多くの自衛官が規律を厳守しながら、被災者のために黙々と救援活動に当たっている。そんな中、ルール違反を疑われる行為が発覚したのは極めて残念だ。
実力組織である自衛隊の隊員は、厳しく自らを律する必要がある。国民、そして近隣諸国の不信を招くような行動は厳に慎まなければならない。