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若返りホルモンは、若さと健康を保つために働く大切なホルモンです。年をとるとともに少しずつ分泌量が減ってゆきます。その減り方の早さには個人差があります。分泌の減りが早い原因を調べてみると、遺伝や体質が原因の人はごくわずか、1割にも満たないでしょう。ほとんどの人はあしき生活習慣や環境が原因で、老化のスイッチが押されてしまい、大切なホルモンの分泌が減ってしまうのです。
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三つの若返りホルモン
若返りホルモンの代表はメラトニン、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)、成長ホルモンです。
メラトニンは体内時計に従って夜間に分泌されます(「『睡眠の質』を高める三つのキーワード」を参照)。体中のすべての細胞がメラトニンの受容体をもつため、昼と夜のリズムに合わせて活動することができるのです。また、睡眠の質を高める作用があります。
DHEAは前回紹介した長寿との関係がもっとも強いホルモンです(「長寿に関係? 注目の『若返りホルモン』とは」を参照)。免疫力や抗ストレス作用があるほか、女性ホルモンや男性ホルモンの材料になります。
成長ホルモンは睡眠中に分泌されるホルモンで、細胞分裂とたんぱく質の合成を促す作用があります(「若返りホルモン 分泌を促す三つの習慣」を参照)。身体のいろいろな組織を刺激して、局所からの成長因子を分泌させる司令塔になっています。
メラトニン、DHEA、成長ホルモンは互いに協調しながら作用します。加齢にともなってバランスよく低下するのであれば、それは一年一年、年を重ねるような「正常な老化」です。しかし、一つだけずばぬけて減ってしまうと、ホルモンバランスがくずれて問題が生じます。それが「病的な老化」です。原因の大部分は「あしき生活習慣」です。
若返りホルモンを保つ方法としてホルモン補充療法を行う場合もありますが、その数は1%にも満たないので、基本は「生活習慣の改善」となります。
基本は体内時計のベストチューニング
若返りホルモンは夜間の睡眠中に主に分泌されます。従って、しっかりと睡眠時間を確保すること、就寝時刻のばらつきが少ない方が分泌はより良好になります。
そして、若返りホルモンの分泌が最適になるのは、体内時計(1日約25時間)と地球時間(1日24時間)をうまく同期させた時です。以下に、体内時計のベストチューニング法を示します(「免疫力もアップ! 体の機能を高める三つのこと」を参照)。
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【チューニングの三つのポイント】
その1.朝に光を浴びる。
その2.朝食を食べる。
その3.朝からたんぱく質をしっかり食べる。
メラトニン分泌は光を浴びるといったん停止します。体内時計が地球時間にリセットされて、体中の細胞に「朝になったこと」「一日の活動のはじまり」が伝達されます。
朝食を食べると血糖値が上がります。朝いちばんの血糖上昇は体内時計をリセットする働きがあります。
体内時計の過程は、「時計たんぱく質」の合成から始まり、午後にはたんぱく質が完成、その後分解されます。一周期に約25時間かかります。時計たんぱく質の合成に必要な材料を確保するために、朝からたんぱく質をしっかり食べることが大切です。
体を動かせ! 安静は禁物!
病気になった時、たいてい「安静」が有効です。しかし「若返りホルモン少ない病」には安静が無効どころか、かえって悪化させてしまいます。安静、すなわち「何もしない」でいると、老化スイッチが押されて、ホルモンはどんどん減ってゆくでしょう。
運動不足によりDHEA、成長ホルモンの分泌が減っているので、身体活動を増やして、挽回しましょう。十分に体を動かした日は睡眠の質が改善するので、メラトニンの分泌も増えます。
運動と聞くと、ジョギング、水泳、テニス、ゴルフなどハードルが高いと思われます。そうではなくて日常生活の中で積極的に体を動かす工夫をしてください。散歩、買い物、掃除、庭の草むしりなどなど、いろいろあると思います。
なんと言ってもコストパフォーマンスが最高なのは砂浜ウオーキングです。海風に吹かれ、磯の香りに包まれて、すてきな景色を眺めながら、ゆったり気分で砂浜を歩きましょう。同じ時間だけ歩いた時に比較すると、他の場所で歩くより砂浜ウオーキングは疲れます。それだけ筋肉を使ったことを意味します。私たちの研究からも、砂浜ウオーキングでは下半身の筋肉だけでなく、腹筋や背筋といった体幹の筋肉をよく使うことがわかっています。
食事をおいしくいただく
体を動かすとおなかがすきます。そんな時に「おなかの声」に耳を傾けて、体が欲するものをおいしくいただきましょう。人間は本能に従って食べれば健康に過ごせるように、機能が備わっているはずです。運動によって本能を研ぎ澄ますことが大切です。
もちろん食べ過ぎは禁物です。食べ過ぎたら2、3日は控えめにするなど、カロリー摂取量や栄養バランスは後で、目標に近づけるように帳尻を合わせると良いでしょう。
「やせすぎ」もホルモンバランスが乱れるので要注意です。他人の目から見て「恰幅(かっぷく)がいい」「中肉中背」「小太り」と評価されるくらいが良いでしょう。
【目標】
基本的なカロリー摂取量(kcal/日)は「標準体重(kg)× 35~40」です。
栄養バランス(全カロリーに対する割合)は、たんぱく質(P):脂質(F):炭水化物(C)=15~20%:25~30%:55~65%です。
たんぱく質とその分解産物のアミノ酸はメラトニンと成長ホルモンの材料です。脂質に分類されているコレステロールはDHEAの材料になります。脂質はその中身が重要です。不足すると過剰死亡が増えて、健康長寿の妨げになる成分は「オメガ3系脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」です(「体を改善して死亡リスクを減らす 鍵を握る三つの食材」を参照)。
オメガ3系脂肪酸の摂取目標は430~470mg/日、不飽和脂肪酸は総カロリーの7~9%です。炭水化物には糖質と食物繊維が含まれます。食物繊維は1日21~22gを目標にしましょう。
以上は、おおむね健康な人が健康増進を目指すための話です。病気療養中の人はそれぞれの状態に応じた食事療法が必要です。この違いを理解しないと、誤りや混乱を招くので注意してください。
恋や探検、研究で「わくわく」「どきどき」
次の話は、国際学会での夜の懇親会(ガラディナー)の一コマです。
「お前の話は長い。アンチエイジングの秘訣(ひけつ)は一体何なんだ? 一語で言いたまえ」
せっかちなイタリア人から質問です。仕方ないので少しもったいつけてから答えました。
「それは『LOVE』だ。君たちは得意だろ。周り見てみろ! みんなホルモンを出してるぞ!」
彼はあわてて、カップルであふれかえるダンスステージに繰り出していきました。
現実の相手がいなくたって、かまいません。アイドルの追っかけ、熱烈ファンになる、映画やドラマにのめりこむ。それで良いと思います。そんな「ときめき」「わくわく」を実感することが大切です。
若者には「ときめき」「わくわく」を体験してほしいと思います。学生に「冒険、探検に行ってこい」と言っても、「怖いです」と引かれてしまいます。それならば冒険映画を見るよう勧めます。もちろん「映画館で見るんだぞ!」とつけ加えます。
2013年9月の阪神対巨人戦で、甲子園球場前に集合した米井嘉一研究室の阪神応援団=本人提供
アスリートを応援するなら競技場に行きましょう。
考えてみると、私たちが今やっている「研究」という行為には冒険の要素があふれています。世の中には、まだよくわからないこと、未知の世界がたくさんあります。実験という探検によって新たな発見にたどり着くのです。多くの人たちにこんな気持ちを味わってほしいです。
特記のない写真はゲッティ
米井嘉一さんの近著「アンチエイジングは習慣が9割」米井嘉一さんの著書「アンチエイジングは習慣が9割」をプレゼント
米井嘉一さんの新刊「アンチエイジングは習慣が9割」(知的生きかた文庫)を10人の読者にプレゼントします。ご希望の方は、お名前、ご住所、医療プレミアへのご意見・ご感想を明記の上、メールの件名に「バランス健康術プレゼント係」と書いて、医療プレミア編集部(med-premier@mainichi.co.jp)宛てにお送りください。締め切りは11月末。当選者には12月中に発送します。
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米井嘉一
同志社大学教授
よねい・よしかず 1958年東京生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。89年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。08年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、日本人間ドック学会評議員。医師として患者さんに「歳ですから仕方がないですね」という言葉を口にしたくない、という思いから、老化のメカニズムとその診断・治療法の研究を始める。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。