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毎日新聞 2024/1/22 東京朝刊 有料記事 1810文字
鎌田塾で、ベーコン入りのごちそうみそ汁と、サラダ、サバ缶料理を作って食べています
ぼくが医師になりたての頃、長野県は脳卒中が多い不健康県だった。何とか地域を健康にしたいと取り組んだことの一つに、「具だくさんみそ汁」の普及があった。
みそ汁に野菜をたっぷり入れることで、減塩ができる。野菜からうまみが出て、みそを減らすことができるうえ、野菜に含まれるカリウムが体内の塩分(ナトリウム)を排出してくれる。もちろん、野菜の抗酸化力や食物繊維は健康の味方だ。
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メタボ対策としてこのみそ汁を提案してきたが、ここ数年、高齢者のフレイル対策には少し物足りないと考えるようになった。フレイルとは、筋肉の衰えにより心や体の働きが弱くなった「虚弱」状態のことを言う。65歳以上の8・7%がフレイル、40・8%がプレフレイル(フレイル予備軍)という、東京都健康長寿医療センター研究所のデータもある。
そこで考えたのが「ごちそうみそ汁」である。野菜たっぷりの具だくさんみそ汁に、豚こま肉やベーコン、高野豆腐、サバ缶、カニカマなどのどれかを加えたものだ。筋肉を作るたんぱく質がたっぷりとれる。さらに牛乳を加えればまろやかな味になり、カルシウムを補給できるので骨も強くなる。
たんぱく質は朝とると効率的に筋肉に変わりやすいことが、時間栄養学の研究でわかってきた。ごちそうみそ汁も、できたら朝食べるのをおすすめしたい。
食べ方で注意したいことの一つに、血糖値がある。食後、血糖値が急上昇する血糖値スパイクは、血管や脳細胞の慢性炎症を起こしやすくし、認知症のリスクを高める。動脈硬化も進めてしまう。
そのため、野菜から食べる「ベジファースト」を実践している人も多いだろう。しかし、高齢者の場合、先に野菜を食べてしまうとおなかいっぱいになってしまい、たんぱく質を十分にとれなくなってしまう人もいる。その場合は、魚や肉、大豆などのたんぱく質を先に食べる「たんぱくファースト」をすすめている。最初にたんぱく質を食べたら、次に野菜、最後にごはん、麺類、パンなどの炭水化物をとるのである。
最近は、炭水化物(カーボ)を最後に食べる「カーボラスト」は、「ベジファースト」以上に血糖値スパイク予防になるといわれるようになった。何を食べるかということも大事だが、どの順番で食べるかも大事なのだ。
高齢になると多くなるのが低栄養だ。2016(平成28)年の厚生労働省の調査では、65歳以上の男性13%、女性22%に低栄養傾向が見られたという。高齢になると食欲が低下するうえに、ひとり暮らしになる人も増え、栄養が偏ってしまう。
昔から健康食の合言葉に「まごわやさしい」(豆、ごま、わかめ、野菜、魚、しいたけ)というのがあるが、低栄養やフレイルのことを考えると、やはりこれでは物足りないように思う。いくつになってもピンピン元気でいるために、「朝は来た、にぎやかだ」を合言葉にしてもらいたい。
「あ」油。オメガ3系脂肪酸のえごま油やアマニ油、オメガ9系脂肪酸のオリーブ油など。「さ」魚。サンマ、イワシ、サバなどの青背魚にはDHAやEPAが含まれている。「は」発酵食品。腸内細菌の善玉菌の働きをよくする。「き」きのこ。食物繊維が豊富。「た」卵。黄身に含まれるコリンは、認知機能の維持によいとされる。好きな方は1日3個まで。「に」肉。たんぱく質は筋肉量アップに欠かせない。「ぎ」牛乳。たんぱく質やカルシウムが豊富で、骨粗しょう症の予防になる。「や」野菜。抗酸化力の高い色素は、老化のもととなる慢性炎症を防いでくれる。目安は1日350グラム。「か」海藻。食物繊維やカルシウムなどが豊富。「だ」大豆。たんぱく質が豊富。
これら10品目から、毎日7品目を食べることをおすすめしたい。
食は、健康づくりの重要な柱である。ぼくが健康づくり運動に取り組んできたこの50年の間、科学的にもいろいろなことがわかってきた。ここ数年は、佐賀県で「がんばらない健康長寿実践塾」を開き、新しい知見をもとにした食事術を広めてきた。新刊「医師のぼくが50年かけてたどりついた 鎌田式長生き食事術」(アスコム)は、佐賀県で指導してきた筋肉を増やすコツ、骨粗しょう症予防の食べ方、脳や血管、腸にいい食べ物など11の秘訣(ひけつ)を紹介している。
一生のうち、あと何食とれるか。そう考えたら、おいしくて、体も心も喜ぶものを食べたいじゃないか。(医師・作家、題字も)
=次回は3月17日掲載