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毎日新聞 2024/1/26 東京朝刊 850文字
月面に「逆立ち」するように着陸した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」。手前左下と右下にはこの画像を撮影した小型ロボット「LEV-2」の一部が写っている=月で2024年1月20日(JAXAなど提供)
月探査の可能性を広げる成果だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「SLIM(スリム)」が、月へ降り立った。旧ソ連、米国、中国、インドに続く日本初の快挙だ。
狙った地点との誤差は55メートルにとどまり、「ピンポイント着陸」を成功させた。これまでの着陸よりも精度を数百倍高めた。高い運用技術は、今後の月探査を支える切り札になる。
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小型ロボットが撮影した月面に立つSLIMの写真も届き、日本が世界トップレベルの技術力を持つことを示した。
今、月に世界各国の関心が集まる。水やレアメタルなど豊富な資源が存在し、近年の観測結果から、分布も明らかになってきた。「降りられる場所」でなく「降りたい場所」へ導くための技術が求められている。
月には地球の6分の1の重力がある。いったん降下を始めるとやり直しは難しく、一発勝負になる。今世紀に着陸を目指して打ち上げられた10の探査機のうち、成功は4機にとどまる。
探査機「SLIM(スリム)」の月面着陸が成功し、SLIMの模型を手に撮影に応じる(右から)JAXAの山川宏理事長、JAXA宇宙科学研究所の國中均所長、藤本正樹副所長=相模原市中央区のJAXA相模原キャンパスで2024年1月20日午前3時45分、手塚耕一郎撮影
SLIMは、カメラで撮影した画像と月面の地図を照合し、自らの位置を判断しながら目標地点へ降下した。世界で初めて小惑星の物質を持ち帰った探査機「はやぶさ」の運用で培った航法を生かした。日本の「お家芸」と言える。
ただし、着陸直前にエンジンが脱落するトラブルが起きた。そのため、機体の姿勢が想定と変わり、太陽電池による発電ができなくなった。JAXAは復旧を目指しているものの、同じ種類のエンジンのトラブルは過去の探査機でもあった。原因究明が必要だ。
月探査を巡っては、米国と中露の競争が激しさを増している。
米国は、宇宙飛行士を月面へ送る「アルテミス計画」を進める。アポロ計画以来となる大規模プロジェクトには、日欧も参加する。中露は、共同で月基地を建設する計画を立てる。しかし、資源争奪や分断が深まる事態は避けなければならない。
月は、現代の「新大陸」とも呼ばれる。人類の活動領域を広げ、世界が抱える課題の解決につながる可能性がある。恩恵が人類全体へ及ぶように、日本は高い技術力を生かして貢献すべきだ。