飲茶
飲茶〈ヤムチャ〉とは、広東語で「蒸篭に入った様々な点心をつまみながら、中国茶を愉しむ」と意味します。
これは、一九三〇年代から、中国の広東省辺りで普及した食習慣で、今でも広く親しまれています。湯気立つ蒸籠をワゴンいっぱいに積み、駅弁スタイルでテーブルの合間を縫って売り歩く売り子達。
客は、そこから好みの点心を選び、 会話とお茶を愉しみながら、くつろぎの時間を過ごします。
香港では、飲茶はファーストフードのように、いつでも気軽に楽しめる軽食なのです。
飲茶の主役は、なんといってもお茶です。
勘違いされがちですが、点心はお茶の引き立て役に過ぎません。さっぱりとした中国茶は、消化を促す作用があり、脂っぽい料理との相性も抜群。そのため、お茶と点心は、切っても切り離せない仲なのです。一口で中国茶と言っても、その種類は膨大で、味と香りも千差万別です。基本的にお茶は、その発酵度合いによって、六種類に分類されています。発酵が軽い順に「緑茶」「白茶」「黄茶」「青茶」「紅茶」そして「黒茶」があります。日本人が最も慣れ親しんでいる「烏龍茶」は、半発酵茶の「青茶」に入ります。点心との相性がよく、飲茶でとりわけ人気が高いのは、後発酵茶の「黒茶」である「プーアール茶」です。 その他に、お茶はリラクゼーション、健康、そして美容などにも効果的と知られ、人々に愛されています。
点心〈ディムサム〉とは「心に点をつける」という意味の如く、人々の心を、その食のアートで魅了します。
点心は主に、団子、菓子、杏仁豆腐〈ハンヤンダゥフー〉やプリンなどの甘い軽食類の「甜点心〈ティムディムサム=甘い点心〉」と、焼売〈シゥウマイ〉、 餃子〈ガゥジー〉、包子〈バォジー〉、餅〈ベーン〉、麺〈ミーン〉、飯〈ファーン〉などの甘くない軽食類の「鹹点心〈ハムディムサム=塩辛い点心〉」の二つに分かれています。素材が豊富で、調理法も、蒸す、焼く、揚げる、炒める、などといったように多種多様です。冷たいもの、温かいもの、あっさりしたもの、こってりしたもの、辛いもの、甘いものなど、どれも食べ尽くしたいと思うほどのもの。一品一品、味と香りはもちろん、人々の目をも楽しませてくれるものばかりです。その店でしか味わえない、点心師の工夫とアイデアが詰まった、オリジナル点心を食べまわるのも、飲茶する楽しみの一つかもしれません。
飲茶の楽しみ方には、マナーもルールもありません。ですが、できれば一品ではなく、様々な種類の点心と、お好みの中国茶を選び、それを時間かけて、ゆっくりと味わってもらいたいものです。食べる順序は、あっさりしたものから、こってりしたものへ、最後にデザートといったように味わうのが基本です。また中国では、日本のように、冷たいお茶をあまり飲みません。それは胃の温度を下げることによって、免疫力をも下げてしまうからです。ですから飲茶の時も、お茶はなるべく温かくしてお飲み下さい。その方が香りも味も、一層増します。