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毎日新聞 2024/2/4 東京朝刊 有料記事 1665文字
<くらしナビ ライフスタイル>
化石燃料に基づく「進歩の時代」は終わりを迎えた――。1980年代から地球環境問題に警鐘を鳴らしてきた米作家ジェレミー・リフキン氏は新著でそう喝破した。欧州連合(EU)首脳の政策アドバイザーなども務めた知性は、気候変動で荒ぶる地球を生き抜くキーワードをレジリエンス==と指摘する。【聞き手・ニューヨーク八田浩輔】
――新著では2008年を化石燃料に基づく「進歩の時代」の終わりの始まりと指摘している。なぜか。
◆私たちの周りのあらゆるモノやサービスは化石燃料に結びついている。原油価格は08年7月に1バレル当たり147ドル(約2万円)で史上最高値を記録し、グローバル経済は機能停止に陥った。同じ年に米住宅バブルの崩壊に端を発した金融危機はその余震だったのだ。当時のショックから世界経済はまだ回復できていない。ロシアのウクライナ侵攻後にも原油価格が上がり、同じことが繰り返された。
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地球の異なる未来をどのように切り開くかについて、新しい考え方を持つことが必要だ。地球を人間に適応させるのをやめ、人類が自然に適応し、共生する。それがレジリエンス(回復力)の時代だ。
――地球における気候変動の脅威は30年以上前に認識されていた。人類はもっと早く行動できたのでは?
◆十分な時間があったが、活用してこなかった。気候変動が悪化するにつれ、私たちはより不確かな未来に直面する。洪水、干ばつ、熱波、山火事、台風で多くの命が奪われ、住む場所を追われる人々がいる。問題は、そのような状況でも化石燃料に基づく産業文明の世界観にとどまっていることだ。「進歩の時代」のインフラは価値が失われ座礁資産となる。日々の生活、経済、統治に至るまで新しい時代に適応する戦略がいる。
――国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)のような枠組みを通じた変化に期待できるか。
◆何が必要かに誤解がある。人類学的な観点から危機全体を見る必要がある。約1万年前に氷河期が終わり温暖な「完新世」が訪れると、かんがい農業や産業革命など人類と地球の関係でパラダイムシフトがあった。歴史的な転換期には、(1)コミュニケーション(2)エネルギー(3)運輸・物流(4)水の管理――において新しい技術が出現した共通点がある。現在はスマートフォンで数十億人がつながり、太陽光と風力は最も安いエネルギーとなった。輸送や水の管理もアルゴリズムなどによって半自律的に行われるようになるだろう。私たちは革命のさなかにおり、移行の準備は整っている。気候変動は人類史上最大の危機だが、危機はチャンスを生み出す。
――日本はそのチャンスを最大限に生かせているか。
◆日本は真の大国で、前述した四つの分野でも世界有数の大企業がある。同時にそれはある意味で厄介なことでもある。「進歩の時代」の遺産を守ることに必死になるためだ。
激しさを増す気象災害は国境や自治体など従来の政治的境界を越え、レジリエンスの時代には中央集権的な統治のあり方も変わる。地域の生態系を保全・管理するバイオリージョン(生命地域)ごとの分散的な統治へと時間をかけて移行するだろう。ひとたび変化が起きれば動きは加速するが、まだその段階には至っていない。若い世代が政治に積極的に参加し、巨大なチャンスを動かすことが必要だ。
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■ことば
レジリエンス
回復力、弾性などを意味する英単語(resilience)。日本でも東日本大震災以降、防災やビジネスなど不確実性に対処する危機管理の分野で多用されるようになった。リフキン氏は著書で、混乱に「適応」する力という含意で使用している。