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食事介助に来た介護士に手を合わせる新型コロナの入院患者=大阪市住吉区で2021年2月16日、久保玲撮影
新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)の流行当初、「日本人はコロナによる死亡者が少ない」と言われていました。この理由についてさまざまな識者がさまざまな意見を述べていました。「日本人はBCGを接種しているからコロナに強い」などというウワサもまことしやかに広がりました。ところが、いつの間にか日本人のコロナによる死亡者が増え、人口10万人あたりの死亡者数は2023年、米国を上回りました。今回はなぜ日本で新型コロナによる死亡者が増えているのか、死亡者を減らすには何が大切なのかを私見を交えて述べます。
当初は少なかった死亡者数
まずコロナの流行当初、日本人はコロナによる死亡者が少なかったことを確認しておきましょう。コロナの流行が始まった20年、世界では180万人以上のコロナによる死亡が報告されました。最も死亡者が多かったのは米国で、米疾病対策センター(CDC)によると35万人が死亡しました。人口10万人あたりでは85人になります。一方、日本での死亡者はわずか3466人で、人口10万人あたり2.8人でした。
世界の人口を80億人とすると10万人あたりのコロナの死者は、世界22.5人、米国85人、日本2.8人となります。日本の人口あたりのコロナによる死亡者数は米国のわずか30分の1に過ぎませんでした。
ところが、23年の死亡者数は、米国7万6446人(人口10万人あたり18.2人)に対して、日本は3万8086人(同31.4人)と、人口10万人あたりの死者数は日本が米国を上回ったのです。
ファクターXの正体
冒頭で述べたように、「日本でコロナの被害者が少ないのはなぜか」についてはさまざまな説が流布されてきました。いつしか被害者が少ない要因が「ファクターX」と呼ばれ(名付け親はノーベル賞受賞の山中伸弥先生)、なかでも「BCG説」については大勢の学者が研究を重ね、いくつもの論文が発表されました。現在でもこの説に固執している人はごく少数だと思われますが、20年当時「幼少時にBCGを接種していないから打ってほしい」という外国人からの依頼が当院に多数寄せられました(そんなことをすると必要な乳児に接種する分が不足してしまいますから全て断りました)。
では、なぜ初期のコロナでは日本人の死亡者が少なかったのでしょうか。これについては過去の連載「新型コロナ 『第6波』後でも日本の死者が欧米より少ない理由」で私見を紹介しました。ここで少し振り返ってみましょう。
まず私は、コロナによる死亡者が少ないのは日本だけではなくアジア諸国全体でいえることに注目しました。そのコラムに掲載したグラフをみれば一目瞭然で、22年4月時点の累計死亡者は欧米諸国とアジア諸国で大きな差があり、人口100万人あたりの死亡者数は10倍近くの差がありました。
アジア、ヨーロッパ各国の、人口100万人あたりでみた、新型コロナによる累積の死亡者数=Our World in Data のウェブサイトから
ここまで大きな差がつく原因として私が考えていたのは「肥満と血栓」です。欧米諸国に肥満者が多いのはよく知られた事実です。また、欧米人の方が血栓ができやすい傾向にあります。肥満自体が血栓を起こしやすく、それ以外にも欧米では低用量ピルの普及率が高く、臓器移植の実施者が多いことを理由として述べました。コロナ重症化リスクの最たるものが肥満と血栓なのですから、リスク要因が多数ある欧米人の方が死亡率が高いのは当然だと考えたのです。
しかし現在、上述したように、人口あたりのコロナによる死亡者数で日本が米国をしのいだという事実に直面しているわけですから、コロナの死亡リスクを改めて考えなければなりません。
変化したウイルスと社会
20年から22年のいわば「コロナ初期」と23年以降の「現在のコロナ」で異なることが二つあります。ひとつは「ウイルス自体が弱毒化したこと」、もうひとつは「人々が予防策を取らなくなったこと」です。
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21年末に誕生し、22年の半ばあたりから世界中で急速に広がったオミクロン株は強い感染力と引き換えに毒性は大きく低下しました。ワクチンの有効率が大きく低下したことに加え、(有効性に疑問の声があるものの)ラゲブリオ、パキロビッド、ゾコーバといった抗コロナ内服薬が普及したこともあり、「3密」なる言葉は死語と化し、人々はマスクを外し元通りの世界へと戻っていきました。ワクチンについては健康な若者はもちろん、医療者でさえも見向きもしない人が増えました。
コロナを疑う症状が出現しても医療機関受診は必ずしも必要ないと考える健常人が増え、やがて感染者数の報告数は正確さを失い始めました。若者の間では「コロナ」という言葉自体が過去の産物となり、医療機関へのコロナに関する相談は激減しました(とはいえ、当院には今も感染後の後遺症やワクチン後遺症に長期間苦しんでいる人たちからの相談はそう減っていませんが)。
コロナ初期と現在で異なる二つのことのうち、「ウイルスの弱毒化」は世界共通ですから、日米で人口10万人あたりの死亡者数が逆転したことの理由にはなりません。「ウイルスの弱毒化」によって、肥満や血栓症リスクなどの重症化因子が少々あったとしても、それだけで命を奪われる事態にはならなくなったのです。
ただ重度の「重症化因子」があれば、やはりコロナは依然「死に至る病」です。そしてその「重度の重症化因子とは高齢化だ」が私の考えです。日米間で予防対策の内容に差がなくなった(というより「日米とも国民の大半が予防をしなくなった」)のであれば、人口あたりの死亡者数は「高齢化」が鍵を握ります。
高齢化率の極めて高い日本では、大勢が予防をしなくなった現在、コロナによる死亡者数が増えるのは当然なのです。75歳以上の高齢者が人口に占める割合は米国6.6%、日本は14.7%です。これだけの差があるわけですから、適切な予防策をとらなければ、そのうちに日本は「最もコロナで死亡しやすい国」となるでしょう。
コロナで死なないためには
ではどうすればいいか。やはりまず考えるべきはワクチンです。最近医学誌「JAMA」に掲載された記事によると、現在急激に増えているXEC株は、それまで主流だったKP.3.1.1よりも有効再生産数が高く(つまり広がりやすく)、また高い「免疫回避を示す」ことがわかっています。
新型コロナウイルスワクチンの定期接種を受ける男性(左)=東京都板橋区で2024年10月1日午前9時7分、肥沼直寛撮影
「免疫回避を示す」とは、過去に感染していても、また、過去にワクチンを接種していても感染しにくいわけではないですよ、という意味です。しかし、XEC株はJN.1株とKP.2.株から派生したオミクロン株の一種であり、KP.2を標的として開発された現在のワクチンは効果が期待できます。そして、「JAMA」によればワクチンの効果は過去に感染して獲得した自然免疫よりも高いと考えられています。
米CDCの発表データでは、今シーズンワクチンを接種した成人は21%、65歳以上では44%です。しかし、私が日ごろ見聞きしている肌感覚でいえば、日本のワクチン接種率はこの数字よりもはるかに低いと思われます(参考「新型コロナワクチン、医療者はどれだけ接種しているのか」)。すでに米国をしのいだ日本の人口あたりのコロナによる死亡者数は今後ますます増えることが予想されます。
12月20日、厚生労働省はコロナの最新の発生状況を公表しました。12月9~15日の新規入院患者数は全国で1980人。この人数は前週からみれば1.2倍、前々週からは1.4倍と徐々に増加しています。11月初頭から比較すれば2.3倍に増えています。おそらくしばらくの間増加傾向が続くでしょう。
ではどうすればいいか。聞き飽きた内容かもしれませんが、高齢者(及び重症化リスクがある人)は体調を整え、人混みではマスクを着用し(効果はわずかでもしないよりはましです)、ワクチンを検討し、感染すれば(今は無料でなくなりましたが)抗コロナ薬の内服を考慮すべきです。若年者の場合は死亡する可能性は極めて低くなりましたが、後遺症で苦しむ人たちは依然少なくないことは知っておいた方がいいでしょう。
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谷口恭
谷口医院院長
たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。谷口医院ウェブサイト 月額110円メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。