|
毎日新聞2024/2/21 東京朝刊有料記事1060文字
24日に開所するTSMCの新工場=熊本県菊陽町で17日
熊本県で建設が進んでいた半導体受託製造の世界最大手「台湾積体電路製造」(TSMC)の新工場が24日に開所式を開く。工場周辺は地価が高騰するなど空前絶後の半導体バブルに沸くが、相次ぐ関連企業の進出などで用地不足と人材不足が深刻化している。県内での第2工場建設も表明したTSMC。地元関係者が「令和の黒船」と呼ぶ巨大メーカーの進出は、地方の姿を大きく変えている。
阿蘇の外輪山を望む熊本県菊陽町。収穫期を迎えたキャベツが並ぶ畑や牛舎などに囲まれた丘陵地の一角に、ガラス張りのオフィス棟と白亜の工場棟が建つ。TSMCの子会社で、ソニーやデンソーなども出資する「JASM」が2022年4月から建設に乗り出した新工場だ。
Advertisement
町役場にある「歓迎 菊陽町へようこそ。TSMC・JASM従業員の皆様を歓迎します」との懸垂幕は、日本語のほか、台湾で使われる繁体字でも書かれ、歓迎ムードが漂う。
町の人口は約4万4000人。町内を流れる白川の豊かな水と肥沃(ひよく)な土壌に恵まれた農畜産物の産地で、特産の「菊陽にんじん」は全国に出荷されている。近年は、隣接する熊本市のベッドタウンとしても発展している。
そんな町に大きな転機が訪れる。21年11月、TSMCが菊陽町への工場建設を発表したのだ。政府も、経済安全保障の観点からTSMC誘致を「国策」と位置付け、新工場への設備投資額約1兆円の半額に当たる約4760億円の補助を決めるなど、一大プロジェクトが展開されることになった。
県内には第2工場の他、ソニーグループの新たな半導体工場の建設も予定され、半導体関連企業の集積が進む。肥後銀行(熊本市)などを傘下に置く九州フィナンシャルグループ(同市)は県内の経済波及効果を、関連企業の進出なども含め10年間で6兆9000億円と試算している。県工業連合会の田中稔彦会長(64)は「規模、投資額ともに桁違い。TSMCは、まさに『黒船』だ」と期待を寄せる。
新工場では約1700人の雇用が予定されていることもあり、町内ではマンションやアパートの建設ラッシュが起きている。町内の23年路線価は前年比で119・0%と、全国2位の上昇率になった。
町商工会の後藤一喜会長(58)は「公示価格と実勢価格は違うので、実際はもっと高い」と話す。工場周辺の山林が進出決定当時に比べて5~6倍の価格で売買されるなど、土地の争奪戦が過熱しているといい、後藤会長は「空前の建設ラッシュで、異常な『不動産バブル』が起きている」と明かす。【城島勇人】