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毎日新聞2024/2/21 東京朝刊有料記事988文字
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「エシカルな働き方やファッションを広げていきたい」と語るモデルで起業家のKIKOさん=2024年1月、東京都千代田区で元村有希子撮影
容姿や外見で人を判断するルッキズム(外見至上主義)。人種差別も女性差別も、根底にはこの思想がある。
上川陽子外相に関する麻生太郎氏の発言を思い出そう。本来無関係な外交手腕と外見を結びつけて批評した。そもそも美醜は個人の価値観による。「ほめ言葉だった」とも看過できない。
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ルッキズムにさらされがちな職業の一つがファッションモデルだ。衣服をより魅力的に見せるという役割への期待が高じて「やせている」ことが求められる。
欧州のエシカルファッションを紹介するため主催したショーで、ランウェイを歩くKIKOさん=2023年8月26日、東京都渋谷区代官山で、Shinichi Koshioさん撮影
モデルの62%が「成功したいならやせるよう」忠告された経験を持つとの調査がある。モデルと、そうでない女性たちとを比較した2022年の論文は、モデルという職業が拒食症の危険因子になりうると指摘する。
「KIKO」の名で活動する平川葵子さん(26)は、17歳で拒食症を経験した。
モデルを夢見るようになったのは、スカウトされた12歳のころ。世界的な存在になりたいと、高校を休学してカナダに渡った。学業とモデル活動の両立に張り切っていた時、所属事務所から1週間で5キロやせるよう求められた。
フランスを拠点に活躍するKIKOさん=2023年9月、LARA DIZEYEEのパリコレオートクチュールで、提供写真
当時の身長は180センチ。リンゴとサラダ以外口にせず、一日中泳いで体を絞った。
体重は44キロに減ったが満足できなくなっていた。体格指数のBMIは「低体重」である18・5未満を大きく下回る13・6。やがて低体温、心拍数減少など命を脅かす症状があらわれ、入院した。
「自分を愛せないようでは他人を幸せにすることもできないことに気づきました」と振り返る。心身の健康と栄養の関係を学び、食生活を見直して拒食症を克服した。体重計は捨てた。
19歳で渡仏し、パリコレなどで活躍している。業界には今も、モデルたちを追い込むような悪弊や過酷な労働環境が残るという。
「エシカルモデル」の肩書でパリを拠点に活動するKIKOさん=2016年2月撮影、提供写真
「モデルはマネキンではなく生身の人間です。健やかに働き続ける環境を整えるだけでなく、ファッション全体をもっとエシカル(倫理的)に変えたい」
地球環境や動物の福祉に配慮して作られたファッションを普及させる社会運動に関わっている。体形や人種、性別、国籍など、多様性を持った「エシカルモデル」60人が登録する事務所の経営者でもある。
きらびやかな世界ほど、生まれる影は濃いのだろう。KIKOさんはそこに目をこらし、挑み続ける。お仕着せの価値観に手なずけられない「Z世代」。その強さがまぶしい。(論説委員)