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毎日新聞2024/2/26 東京朝刊有料記事1342文字
絵・五十嵐晃
ロシアのウクライナ侵攻2年。イスラム組織ハマスに対するイスラエルの反攻4カ月半。戦争のニュース映像が世界を覆う今、非武装が広がれば平和――と信じる人は少なかろう。
日本の次期戦闘機は日英伊の共同開発である。完成品を英伊以外に輸出していいか? 自民党はOK。公明党は「待て」。連立与党の呼吸が合わない。
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第二次大戦で310万の日本人が死んだ。痛切に反省し、79年の平和を保った日本が戦闘機を輸出するのか? 心騒ぐのは公明党支持者だけではない。
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日本の防空体制はどうなっているか――。
自衛隊は3種類の戦闘機を持つ。F35(米ロッキード・マーチン、38機)▽F15(米マクドネル・ダグラス=現在はボーイング、200機)▽F2(三菱重工業。ロッキード・マーチンが協力。90機)である。
これらの戦闘機が領空侵犯警戒の緊急発進(スクランブル)に対応する。近年最多の2021年度で1004回(うち中国機が722、ロシア機226)。22年度は778回(中国機575、ロシア機150)という頻度である。
3種類のうち、35年ごろから退役するF2の後継機に位置づけられているのが、日英伊の次期戦闘機である。つまり、自公両党は11年先の、不特定の国への輸出の可能性について協議している。
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日本の次期戦闘機はなぜ日英伊共同開発か。
米国製、国産――の検討を経て22年12月、日英伊に決まった。米国の横ヤリはなかった。「既に無人機の時代。米国は有人戦闘機開発に関心がない」という説があるが、真相不詳。
各国は、現在最高水準のF35など<第5世代>戦闘機の性能を上回る<第6世代>の開発でシノギを削っている。日英伊の新戦闘機もそこを狙っている。
岸田内閣の下で改定された「国家安全保障戦略」は欧州、豪州、カナダ、ASEAN(東南アジア諸国連合)、韓国――など<同志国>との連携を促す。
アメリカの世界覇権が後退し、民主主義圏の中規模国家間の協力が進む。共同開発の戦闘機は販路拡大で製造コストが下がる。英伊は武器輸出をためらわないが、禁輸が国是の日本の国会では、国是の順守が問題になる。これが戦闘機輸出問題の背景である。
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敗戦後、日本は米占領下で銃弾などを製造・輸出していたが、1960年代から70年代にかけ、反戦平和運動の高揚を背景に武器禁輸が定着。米軍庇護(ひご)下の長い平和により、戦争の現実は視野の外だった。
安倍政権以降、制度上は禁輸が緩和された。が、完成品の武器輸出(タテマエ上は「防衛装備移転」と言い換える)は、フィリピンへの、警戒管制レーダーが唯一の実績である。
武器輸出をめぐる日本の議論で目立つのは、それで選挙への影響はどうかというような話である。
だが、現在、我々が目撃している戦争の現実は、強大な軍事力を持つ国が小国を侵略し、属国化しそうな風景である。それは近い将来、台湾や尖閣諸島で起きるかもしれない。
日本では殺傷兵器輸出の議論はタブーだが、自衛隊は現に殺傷兵器を持ち、いざとなればそれを用いて国民を守る。ますますキナ臭い世界の現実を読み、平和解決の旗は降ろさず、現実的な防衛論議へ移行する好機ではないか。(敬称略)(特別編集委員)=毎週月曜日に掲載