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ヒートショックの対策がとられていない浴室=福岡市東区で2023年1月
歌手・女優の中山美穂さんが「不慮の事故」で亡くなった、というニュースが飛び込んできました。事故の詳細は不明ですが、寒い季節のお風呂は特に注意が必要です。当救急センターにも風呂場で意識を失った80歳の男性が救急搬送されるケースがありました。
家族などの説明によると、夜10時に「お風呂に入る」と家族に告げ、風呂場に向かったそうです。ところが、普段であれば15分くらいで出てくるのに、30分ほどたっても出てこないため、様子を見に行ったところ、浴槽の中で動けなくなっている状態でした。どうやらお湯につかっているうちに意識を失い、水を飲んでしまったようでした。
ヒートショックとは?
冬のお風呂のトラブルとして「ヒートショック」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。ヒートショックは和製英語です。海外にはThermal shockという言葉がありますが、これは物体が温度変化で受ける衝撃を指しており、ヒトについて起きる現象のことではありません。
日本におけるヒートショックの定義は、「温度の急激な変化で血圧が上下に大きく変動して起こる健康被害」です。失神や心筋梗塞(こうそく)、不整脈、脳梗塞が主な症状です。そして、室内外や家の居間と浴室などの寒暖差が激しくなる冬場に多く発生します。
温度の変化は血の巡りに影響する
一般的に、温かいところにいると体の表面の血の巡りは増えます。このときの血圧は普段通りです。しかし寒い環境にいると、熱を外に逃がさないように血管が収縮するため、血圧は上がりやすくなります。また寒さで交感神経が刺激されホルモンが出ることでさらに血圧は上がりやすくなります。暖かいリビングから浴室や脱衣所のような温度が低い場所に移動すると、温度差が大きいため、血圧が上がるのです。
血圧がどんどん上がった後に、その後温かいお湯につかると、皮膚や末梢(まっしょう)の血管が拡張して心臓に戻ってくる血液量が減ります。結果としてジェットコースターのように血圧が急降下し、程度が甚だしい場合は失神することになります。
どんな人にリスクがあるのか?
ヒートショックは高齢者や高血圧、心臓病、糖尿病を抱えている人にとって危険です。健康な人でも、血管が広がりやすい飲酒後はリスクが増加します。また仕事やスポーツなどで疲れている時も血圧が下がっているため、同様にリスクが増します。我々の病院はゴルフ場に近い千葉県成田市にあるため、冬にゴルフをしてその後入浴して失神した方がよく運ばれてきます。
ヒートショックの予防はどうする?
日本でヒートショックが起こりやすい背景には住宅事情が関係しています。欧米では家全体を暖めるセントラルヒーティングが主流ですが、高温多湿の気候の日本では風通しの良さを重視した建築になっており、部屋ごとに暖める局所暖房が一般的です。そのため、冬場には家の中の寒暖差が激しくなります。
予防には入浴前の準備が重要です。まず脱衣場にヒーターやストーブを用意して温めておくようにしましょう。また浴室に入ったら、お湯を床にまいて浴室全体を温めるようにしましょう。
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お湯の温度も重要です。温度差で血圧が上がったところに、熱いお湯につかると、心臓に戻ってくる血液量が減ります。温度の目安は41℃以下です。
ヒートショック以外に注意が必要なのが浴室内熱中症です。湯船に長くつかっていると、体の深部に熱がこもってしまいます。通常は、汗をかいて体内の熱を放出しますが、それができずにどんどん熱が蓄積され、意識がもうろうとしてしまいます。特に高齢者は、熱さを感じにくいため、注意が必要です。その予防のためにも、入浴前後には水分補給をしてください。特に入浴前の水分補給は大事です。
リスクが高い人が入浴する場合は、家族など周囲に声をかけておくことも対策になります。冒頭で紹介した80歳の男性は、家族に声をかけていたことで最悪の事態を免れました。当センターでも、水を飲み込んでしまい肺炎になって入院するケースが毎年冬にあります。
もしヒートショックが疑われたら
入浴中に倒れた人を見つけた場合、意識がなければすぐに救急車を呼んでください。また意識があれば、体温を急激に下げないように体を拭き、毛布などで暖かくして、安静にしてください。
ヒートショックは適切に対策することで、リスクを下げることができます。家庭での小さな工夫を心掛けてください。
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志賀隆
国際医療福祉大医学部救急医学主任教授(同大成田病院救急科部長)
しが・たかし 1975年、埼玉県生まれ。2001年、千葉大学医学部卒業。学生時代より総合診療・救急を志し、米国メイヨー・クリニックでの救急研修を経てハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。東京ベイ・浦安市川医療センター救急科部長などを経て20年6月から国際医療福祉大学医学部救急医学教授、21年4月から主任教授(同大成田病院救急科部長)。安全な救急医療体制の構築、国際競争力を産み出す人材育成、ヘルスリテラシーの向上を重視し、日々活動している。「考えるER」(シービーアール、共著)、「実践 シミュレーション教育」(メディカルサイエンスインターナショナル、監修・共著)、「医師人生は初期研修で決まる!って知ってた?」(メディカルサイエンス)など、救急や医学教育関連の著書・論文多数。