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毎日新聞2024/3/12 東京朝刊830文字
映画「君たちはどう生きるか」の米アカデミー賞受賞の発表を受け、製作した「スタジオジブリ」のスタッフらから歓声が上がった=東京都小金井市で2024年3月11日午前、広瀬登撮影
生と死、破壊と創造が交錯する世界に生きる少年の痛みが、独創的な映像美で描かれる。
宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が、米アカデミー賞の長編アニメーション映画賞に選ばれた。「千と千尋の神隠し」以来21年ぶり、2回目の快挙だ。
宮崎監督の半自伝的な作品とされる。背景にあるのは戦争だ。母を空襲で亡くした少年が、アオサギに導かれて異世界に迷い込む。心象の変化を映し出すような場面展開は、見る者のイマジネーションをかき立てる。
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万人受けするような、わかりやすい物語ではない。映像にあふれるイメージは、力が幅を利かせる現実世界を想起させる。
米メディア評は、ルイス・キャロルらの作品に通じるような、幻想的な世界の魅力に言及する。
昨年の北米公開時には最初の週末で興行収入のトップに立つなど、好成績を上げてきた。
配給に力を入れ、著名な米俳優を吹き替えに起用したことも奏功した。
宮崎作品だけでなく、日本のアニメは海外で人気が高い。
昨年は新海誠監督の「すずめの戸締まり」が、ベルリン国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされた。近年は、北米で「鬼滅の刃」や「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」が大ヒットしている。
市場も外需にけん引される形で成長を続けている。日本動画協会によると、2022年は2兆9277億円に上る。その約半分が海外市場で、10年前に比べて約6倍に拡大している。
こうした日本のアニメの隆盛を支えているのが、不安定な環境の中で働いているアニメーターらだ。制作本数が増える中、人材育成は急務だ。
今回は、迫力ある映像を作り出した山崎貴監督の「ゴジラ―1.0」が視覚効果賞をアジア勢で初めて受賞した。資金力の豊富なハリウッド大作がほぼ独占してきた部門で受賞した意味は大きい。
これまでも高く評価されてきた日本のアニメや特撮映画の訴求力が改めて示された。
二つの受賞は、後に続く者の励みにもなるはずだ。魅力ある作品づくりにつなげていってほしい。