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毎日新聞2024/3/12 東京夕刊有料記事911文字
もろさわようこさんの人生の歩みや思想、言葉が今を生きる私たちに伝わってくる1冊。「志縁のおんな もろさわようことわたしたち」(編著・河原千春)=小国綾子撮影
女性史研究家、もろさわようこさんが99歳で亡くなった。国際女性デーを間近に控えた1日、訃報記事を見つけ、彼女の著書などを改めて読み返した。
軍国少女として育ち、20歳で敗戦。新聞記者、紡績工場内の学校教師などを経て、女性運動家の市川房枝さんが主宰する婦人問題研究所員に。女性を指すなら「婦人」が一般的だった1960年代、侮蔑の対象だった「おんな」という言葉をあえて用い、「おんなの歴史」「信濃のおんな」など多数の著書で女性差別を生む社会構造に切り込んだ。
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72年、部落解放全国婦人集会の講演で彼女はこう問うた。「部落解放を言う人が男女差別をしていないか、女の解放を言う人が部落差別をしていないか」。半世紀以上前に、マイノリティー性の「交差」を可視化する「インターセクショナリティー」という概念を見いだしていたのだ。
講演で政治批判し「留飲が下がりました」などと聴衆に喜ばれるたび、「結果的に体制の安全弁的役割をしているのではないか」と思い悩んだ。戦前なら命がけだった権力批判が今はお金になる、と。
自らの言葉に裏打ちされた生き方を模索し、82年、人権や平和活動に取り組む女性たちの交流拠点として「歴史を拓(ひら)くはじめの家」(現・志縁の苑(その))を長野県佐久市に開いた。自己解体を求めてアイヌ、東北を訪ね、基地を押しつけられている沖縄にも長く暮らし、そこに拠点を開いた。
言葉だけでなく行動を――。そんな彼女の生き方に、私は自問せずにいられない。今のオピニオン編集部に異動して5年。専門書を読み、有識者のインタビューを積み重ねる日々は、新しい考え方や言葉に触れ、目を開かされることも多い。けれど私はそれを上っ面でなく、本当に自分の血肉にできているだろうか。自分を日々新しく再構築できているだろうか。
だから最後に、自戒も込めて、「志縁のおんな」(編著・河原千春)に見つけたもろさわさんの珠玉の言葉をここに引いておく。
<生きている限りは自分を新しくしていかなきゃ。自己解体しないで、言葉だけ新しいものを求めても、ちっとも歴史は動かない。一人一人が自分を新しくしていくときが、歴史が新しくなるとき>(オピニオン編集部)