|
空気が乾燥して肌がカサカサになりやすい時期です。保湿剤をたっぷり塗って、肌を保護することが大切ですが、乾燥肌になりやすい体質かどうかは、手のひらのある部分を見れば分かることがあるといいます。どういうことでしょうか。「ほむほむ先生」こと東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科の堀向健太助教がお伝えします。
皮膚のバリアー機能を担っているのは……
空気が乾燥しやすい冬は、皮膚も乾燥して傷みやすい季節です。そして、乾燥してざらざらした皮膚のことを「ドライスキン」といいます[1]。ドライスキンは皮膚のバリアー機能が下がった状態でもありますから、アトピー性皮膚炎の発症リスクになることもわかっています[2]。
そして、背が高くなりやすい体質の人、糖尿病になりやすい体質の人がいるように、ドライスキンになりやすいかは、その人の体質も影響します。
そこで今回は、ドライスキンになりやすい体質かどうかは、「手のひらのシワ」を見ればわかるかもしれない、という話をしたいと思います。
皮膚の一番表面に「角層」という最も強いバリアーを形作る層があり、角層を形作るたんぱく質の一つに「フィラグリン」という物質があります。そして、そのフィラグリンを作るための設計図を「フィラグリン遺伝子」といい、それに異常があると皮膚のバリアー機能が下がることがわかっています[3]。
つまり遺伝子を調べればわかるわけですが、普通は、遺伝子検査をするなんてできないですよね。
実は、フィラグリン遺伝子に異常があるかどうかの目安になる皮膚の場所があります。それが、手のひらの皮膚です。特に、母指球(ぼしきゅう)という親指の付け根の膨らんでいる部分にシワが深く刻まれている場合に、参考になります。
その手のひらに深く刻まれたシワのことを、医学用語でpalmar hyperlinearity(パルマーハイパーリニアリティ)といいます[4]。
図1
図1のように、パルマーハイパーリニアリティにはいくつかのパターンがあり、子どもよりも20歳以上の成人でよりはっきりしてくるとされています[5]。
また最近、母指球にシワが深く刻まれていなければ、フィラグリン遺伝子に異常がない可能性が高いという子どもの研究結果もあります[6]。
関連記事
<コロナ禍で増える手湿疹が食物アレルギーの原因に!? さらなる盲点も>
母指球のシワは乾燥肌の「目安」になる
もちろん、手のひらにシワが深く刻まれていたら、全員がフィラグリン遺伝子に異常があるというわけではないですし、フィラグリン遺伝子に異常がある人が皆、とてもひどい乾燥肌になるという話をしているわけではありません。
あくまでも目安になる、ということです。
なお、フィラグリン遺伝子に異常がある人は、アトピー性皮膚炎や角層に問題が起こる「尋常性魚鱗癬(ぎょりんせん)」という皮膚の病気を発症しやすく、食物アレルギーの発症リスクも上がるという日本の研究結果があります[7]。
尋常性魚鱗癬とは、皮膚が乾燥して硬くなり、見た目として魚の鱗(うろこ)のようになるという皮膚の病気です。
地域によっても差があるのですが、日本人のアトピー性皮膚炎の患者さんでは、27%以上の人がフィラグリン遺伝子に異常があるという研究結果もあります[8]。
そしてフィラグリン遺伝子に異常がある人は、アトピー性皮膚炎をより若い年齢で発症しやすく、食物アレルギーなどのほかのアレルギー疾患を発症しやすいこと[9]、さらにアトピー性皮膚炎の治療の効果が下がることなどが知られています[10]。
手のひらに深いシワがあっても大丈夫
繰り返しになりますが、パルマーハイパーリニアリティがあったから「ダメ」というわけではありません。皮膚が乾燥しやすい体質なのであれば、保湿剤をきちんと塗ることが重要です。
皆さんは、近視の人が眼鏡をかけたり、コンタクトレンズを装着したりすることを、いけないとは思わないですよね。そして眼鏡をしていれば、いずれ近視が治ると思う人もいないでしょう。
つまり、さまざまな体質があり、その体質と付き合っていくためには道具が必要になる場合があるということです。たとえば、ドライスキンの人は、近視の人の眼鏡やコンタクトレンズのように、体質を補助するための道具として保湿剤があると考えていただければよいのです。
保湿剤はどれがよいと決められるものではなく、どんな保湿剤でも1日に何回も、しっかり塗っておく方がよいとされています[11]。
冒頭にお伝えしましたが、ドライスキンはアトピー性皮膚炎という皮膚の炎症を起こすきっかけになります。
そして、皮膚の炎症がひどくなると、フィラグリンを作りにくくなることもわかっています[12]。すなわち、皮膚の乾燥や炎症がひどくなるほど、ドライスキンも悪化するということです。
普段のスキンケアの重要性がわかりますね。
さて今回は、「フィラグリン遺伝子異常」があると体質的にドライスキンになりやすく、その目安となる手のひらの過剰なシワについてお話ししました。まだまだ空気の乾燥した季節は続きます。保湿剤をうまく使いながら、この時期を乗り切っていけるといいですね。
<参考文献>
[1]堀向健太. 小児内科 54(6): 923-924, 2022.
[5]戸倉 新樹. 専門医のためのアレルギー学講座 アレルギー疾患のフェノタイプ 病態に基づいた分類と治療 アトピー性皮膚炎のフェノタイプ. アレルギー 2017; 66:14-21.
[11]高山 かおる, 片山 一朗, 室田 浩之, 佐藤 貴浩, 戸倉 新樹他. 日本皮膚科学会ガイドライン 手湿疹診療ガイドライン. 日本皮膚科学会雑誌 2018; 128:367-86.
写真はゲッティ
関連記事
※投稿は利用規約に同意したものとみなします。
堀向健太
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科助教/アレルギー専門医
ほりむかい・けんた 小児科医。医学博士。専門は小児科、アレルギー科。日本小児科学会専門医・指導医。日本アレルギー学会専門医・指導医・代議員。広報委員・啓発活動委員会委員。日本小児アレルギー学会代議員。研究推進委員会委員・広報委員会委員。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防に関する介入研究を発表。各種SNSの総フォロワー数12万超。毎日、外来、教育、研究を続けながら、Yahoo!個人オーサー、Voicyパーソナリティ、Newspicsプロピッカー、アメブロオフィシャルブロガーなど、さまざまな媒体で根拠のある医学情報を発信。医学専門雑誌に年間10本以上、一般向け医学記事を20本以上執筆。著書に「マンガでわかる! 子どものアトピー性皮膚炎のケア」(内外出版)、「ほむほむ先生の小児アレルギー教室」(丸善出版)、「小児のギモンとエビデンス ほむほむ先生と考える 臨床の『なぜ?』『どうして?』」(じほう)など。