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毎日新聞2024/3/22 東京朝刊有料記事1916文字
金剛バスの運行最終日には、地元住民たちが運転手にサプライズで花束を贈った=大阪府富田林市甘南備で2023年12月20日、玉木達也撮影
「年間延べ100万人以上が利用する路線バスが3カ月後に廃止になる。後継バスは未定」。大阪府南部を走る金剛バス廃止の情報に接した時、大都市周辺部でも公共交通の維持が危機的状況に陥っていることを痛感した。あれから半年。運転手不足対策や代替交通手段の議論が盛んになったが、この間の取材を通じ、私は公共交通をめぐる「財源」と「計画」のあり方に改善が必要だと考えている。
これまでの経緯と現状を振り返りたい。大阪府富田林(とんだばやし)市と河南(かなん)町、太子町、千早赤阪村を走る金剛バスの廃止は2023年9月11日、運行する金剛自動車(本社・富田林市)がホームページなどで発表。運転手不足と売り上げの低迷などを理由に、12月20日をもってバス事業を廃止することを決定したとあった。
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会社側が4市町村に廃止の意向を伝えたのは23年5月。継続を要望する4市町村の首長に廃止を通知したのは発表の3日前だった。
金剛バスは15路線を持ち、22年度は通勤や通学などで延べ約106万8000人が利用していた。廃止発表当日、バス停のある近鉄富田林駅では、移動手段がなくなるのではと不安の声が相次いだ。
移動手段の維持へ、自治体が後継運行
4市町村は路線を維持するため、近鉄バスと南海バスに協力を要請。2社も運転手不足など厳しい環境にあるとして、自社による直営路線ではなく運営主体は自治体とし、運行経費などは4市町村が負担してバスを走らせることで合意した。その結果、12月21日から金剛バスの後継として「4市町村コミバス」が9路線で運行を開始。各自治体が独自にバスを出す補完運行も加えると、金剛バス時代の8割程度の便数が確保された。
ただ、問題は残った。まずは財源だ。23年度分の4市町村の負担金は補正予算で計約1億5000万円を見込んだ。国の補助金約4600万円が認められたため、その分は減額になったが、残りの約1億円を4市町村が営業距離に応じてそれぞれ負担する。
24年度以降もその構図は続く。例えば、千早赤阪村の場合、24年度当初予算案に4市町村コミバスの負担金として約2450万円を計上。村独自の補完運行の経費も含めると計約8780万円に上る。一般会計が約37億4500万円の村で、その2%超の予算がバス事業のランニングコストに充てられる格好だ。
将来に不安残す、財政事情の行方
国の補助金や特別交付税が一定額認められて、補正予算で実際の歳出が減額される可能性はある。しかし、人口減少が続く中、バス事業の将来は楽観できない。自治体の負担が増え、運行を縮小せざるを得ない事態も考えられる。公共交通を運行する全国の自治体が抱える共通の課題だ。
自治体や企業の財政事情によって、公共交通のあり方が左右されてしまうのは本末転倒だ。交通政策基本法は国が講ずる施策として、日常生活に必要不可欠な交通手段の確保を明記している。流通経済大の板谷和也教授(交通政策)は「欧米では公共交通に公金を使うのは一般的だ。ガソリン税の一部を赤字補塡(ほてん)に使っている例もある。日本は長く独立採算が前提となっていたが、公共交通の経営は一段と厳しさを増している。ガソリン税の一部を公共交通に使うことなどを検討すべきだ」と指摘する。国が財源確保に責任を持つべき時が来ている。
公共交通の方向性を定める自治体の「地域公共交通計画」の策定方法も課題だ。一般的に乗降調査やアンケートを実施し、利用者の需要を把握する。ただ、地元住民に利用してもらう取り組みが足りない。近畿大の柳原崇男(たかお)准教授(交通計画)は「計画作りの中で、地域を移動するのに公共交通が果たす役割を、住民が考える機会を設けることが重要だ。住民が自発的に公共交通を使うことにつながるはず」と話す。4市町村の協議会長で富田林市の吉村善美市長は「住民とまちづくりも絡めての勉強会を開きたい」と語る。内容に期待したい。
23年12月20日の金剛バス運行最終日。100世帯近くが暮らす富田林市の甘南備(かんなび)地区のバス停には夜、地元住民ら約40人が集まり、最終便の運転手に感謝の花束をサプライズで渡した。翌日から地区の平日の便数は20便から4便に激減。地元の3町内会が24年1月に行ったアンケートでは、7割近くが「生活に不便や支障がある」と回答した。
町内会長の一人、上田裕久さん(66)はバスの減便で若者が流出し、地元の過疎化が進むことを危惧する。「ここは昨日、今日にできた集落とは違い、隣近所が助け合ってきた。こういう所を残していかないと(日本は)あかんと思うんやけどな」。寂しそうな表情が目に焼き付いた。