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アフターコロナに備える 免疫強化にはやっぱり「お肉」!米井嘉一・同志社大学教授
2023年3月15日
新型コロナウイルス感染症による重症感染者数や死者数が頭うちになったことを受け、3月13日からはマスク着用が個々人の判断にゆだねられるようになりました。私たち若年シニアはこの状況に際し、どう向き合っていけばよいでしょうか。答えは、「次に備えるべし」です。
感染症による死者 世界で毎年1500万人
人類はこれまでの長い歴史のなかで、次から次へと登場する病原微生物と闘ってきました。その度に免疫力を強化して対抗してきました。次に登場するかもしれない微生物に対して、私たちはこれから先も免疫防御力をうまく整備する必要があるのです。
世界に目を向けると、毎年6000万人が死亡し、その4分の1にあたる1500万人近くが感染症によって命を落としています。その多くが発展途上国や紛争地域の住民で、低栄養による免疫能の低下が原因で、腸管感染症、呼吸器感染症、マラリア感染などを起こします。また、乳幼児や小児に多くみられることが特徴的です。
一方、日本を含む先進国においても、低栄養はまれではありません。胃腸の病気やがんと闘っている人、高齢者の中には食欲が低下したり食生活が偏ったりして、たんぱく質やビタミンといった免疫能の維持に重要な栄養素が足りない人が増えているのです。
免疫能の維持のために最も重要な栄養素はたんぱく質です。免疫防御機構の仕組みについてたんぱく質との関連から説明します。免疫防御機構については記事「知識を身につけ新型コロナに立ち向かう!」を参考にしてください。
病原生物と闘う「免疫グロブリン」の働きとは
免疫グロブリンは、細菌やウイルスなど病原生物をたたく抗体として働くたんぱく質で、血液中はもちろん唾液や消化管から分泌される粘液や消化液に存在しています。免疫には、体内に侵入した病原生物など好中球やリンパ球といった細胞が排除する「自然免疫」と、体内で作られた抗体によって排除する「獲得免疫」があります。私たちが新型コロナウイルスの予防策としてワクチン接種を受けるのは、そのウイルスに対して有効な免疫グロブリンを作り、獲得免疫を得るためです。
免疫グロブリンにはIgA、IgG、IgM、IgEなどの種類があり、体重が60kgの人で1日あたり約6~8gが体内で作られています。IgAは粘膜から分泌され、呼吸器、口腔(こうくう)内、消化管、尿道などの泌尿器、膣(ちつ)や子宮内などの生殖器官の防御を担っています。IgGは獲得免疫の主役で、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)やはしか(麻疹)など個々の病原生物に対して、的をしぼった強力な対応ができるのが特徴です。
このように免疫グロブリンは免疫防御機構の中でも重要な役割を果たしています。たんぱく質の摂取不足に陥ると、免疫グロブリンの合成に支障をきたし、十分な量を確保できません。そのため免疫能が低下してしまうのです。
厚生労働省はたんぱく質の推奨摂取量を増やした!
食を考える場合に重要なことは、摂取カロリーと栄養バランスです。摂取カロリーとは、1日に食べる食物と飲料(お酒のカロリーも含みます)を合わせて何kcalになるかです。この値は体格(体重と身長)と身体活動量(どれだけ体を動かすか)によって決まります。多くの若年シニアは体重が毎月どんどん増えたり減ったりしない限り、今の摂取カロリーでおおむね問題ないでしょう。
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たんぱく質(P)、脂質(F)、炭水化物(C)の栄養バランスはどうでしょうか? これはPFCバランスと呼ばれ、P:F:Cの割合はおおむね2:2:6が良いバランスです。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によれば、たんぱく質の食事摂取基準(摂取カロリーに対する割合)は、18~49歳では13~20%、50~64歳では14~20%、65歳以上では15~20%とされています。
1日に2000kcal摂取する人では、15%は300kcal、たんぱく質に換算すると75gになります。このうち1割が免疫グロブリンの産生に使われます。たんぱく質摂取量が基準に届かない人は結構多いのが実情です。元気な若年シニアは肉、魚、卵、大豆製品を積極的に取り入れてください。たんぱく質を多く含む食品については記事「若さと健康と美しさを保つ成長ホルモン」を参照してください。
糖化ストレスと免疫細胞の機能
新型コロナウイルス感染症では、糖尿病、過剰飲酒、高脂肪食による肥満があると重症化しやすくなり、死亡率が上昇することが明らかになりました。これらの三つに共通しているのが、「アルデヒド」という物質が体内で過剰にできやすいことです。これは糖化ストレスが強い状態です。
アルデヒドは反応性が非常に高く、体内のたんぱく質と反応して、カルボニル化たんぱく質や終末糖化産物(AGEs)といった異常なたんぱく質が生成されます。アルデヒドは細胞膜を通過するので細胞内にも異常たんぱく質が蓄積して、細胞の負担が大きくなります(これは小胞体ストレスと呼ばれています)。その結果、細胞の機能が著しく低下してしまうのです。
免疫防御機構では、白血球の仲間の細胞(免疫細胞)がそれぞれの機能を発揮して働いています。B細胞は免疫グロブリンを産生します。T細胞はサイトカインと呼ばれる病原微生物を殺傷する物質を放出します。マクロファージはウイルスや細菌を貪食します。糖化ストレスが強いと、免疫細胞に異常たんぱく質が蓄積して、それぞれの機能が低下してしまうのです。
アルデヒドスパークが血管を傷つける!
食事をすると、血液中のグルコース濃度(血糖値)が高まります。血糖値が140mg/dLを超えて高くなる状態が食後高血糖で、最近では血糖値スパイクと呼ばれています。グルコースは、99.9%以上が通常の糖型グルコースですが、一部はアルデヒド型グルコースとして存在します。
高血糖の状態ではアルデヒド型グルコースがきっかけになって、連鎖反応を起こし、多種類のアルデヒドが同時多発的に産生されます。私たちはこの現象を「アルデヒドスパーク」と名付けました。まだまだ無名ですが、そのうち有名な言葉になるはずです。そして、これらのアルデヒドが血管の内側の内皮細胞を傷つけることがわかりました。傷ついた血管内皮細胞は新型コロナウイルスが感染しやすいこと、傷ついた場所は血栓を作りやすいこともわかっています。糖尿病患者では、脳や心臓の血管の傷が多いため、脳卒中や虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞=こうそく)になりやすいのです。
たんぱく質がもたらす新たな効能の可能性
たんぱく質がどのように関係するか、説明しましょう。
はじめに、血糖値スパイクが同じように起こる人同士を比べた時に、アルデヒドスパークが起きる人とアルデヒドの量が少ない人が存在することがわかりました。この違いが何故生まれるかを考えた結果、血中にアルデヒドを消去する物質(アルデヒドトラップ剤)が存在するのではないか、その量の違いによるものではないか、という仮説を立てました。
例えば、肉をよく食べる人、たんぱく質摂取量が十分に足りている人では、たんぱく質が消化、吸収されて、血中の総アミノ酸量が高いことがわかっています。アミノ酸はアルデヒドと反応しやすいため、アルデヒドを除去する効果があります。アルデヒドの毒性を減らし、大切な血管を傷から守ってくれるのです。アルデヒドがトラップされて量が減れば、異常たんぱく質の生成量も減り、免疫細胞の機能低下も防ぐことができるでしょう。
現在、この仮説を検証するために実験を進めています。
日野原重明さん=東京都中央区の聖路加国際病院で2010年1月26日、長谷川直亮撮影
ここまで書いて、私は、105歳まで現役医師を貫いた日野原重明先生(1911~2017年)の在りし日の姿を思い出しました。学会などで3度ほどお会いしたことがあります。うわさ通り、ランチタイムにはステーキを召し上がっておられました。
「肉食シニアは元気いっぱい!」と断言できます。
現在、肉(魚肉を含む)をよく食べている人は、これからも食べ続けましょう。
肉が苦手になってきたら、卵や大豆、乳製品を摂取して、たんぱく質不足にならないようにしましょう。そしてかむ力を鍛えてください!
特記のない写真はゲッティ
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よねい・よしかず 1958年東京生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。89年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。08年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、日本人間ドック学会評議員。医師として患者さんに「歳ですから仕方がないですね」という言葉を口にしたくない、という思いから、老化のメカニズムとその診断・治療法の研究を始める。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。