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コレステロールや血糖値、高血圧をコントロールするための一般的な薬剤が、出血性の脳卒中(くも膜下出血)のリスクを低下させる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。論文の筆頭著者であるユトレヒト大学医療センター(オランダ)のJos Kanning氏は、「このタイプの脳卒中は、脳梗塞など他のタイプの脳卒中よりも発症年齢が低く死亡リスクも高いため、その発症を予防する方法が喫緊で必要とされている」と話している。この研究の詳細は、「Neurology」に6月5日掲載された。
この研究では、SAIL(Secure Anonymised Information Linkage)データバンクのデータを用いて、2000年1月1日から2019年12月31日の間に生じたくも膜下出血症例(4,879例、平均年齢61.4歳、女性61.2%)を特定し、各症例に年齢、性別、データベース登録年を一致させた、くも膜下出血を発症していない症例を最大で9例マッチさせた(4万3,911例)。その上で、患者に処方されていた主な薬剤(患者の2%以上に処方)を調べ、その薬剤への曝露時期を、くも膜下出血による入院を起点として「現在(入院前3カ月以内)」「最近(入院の3〜12カ月前)」「過去(入院の1年超前)」、および「曝露歴なし」に分類した。
対象者に処方されていた薬剤の種類は計2,023種類に及んだ。これらの中で2%以上の患者に処方されていたのは205種類(10.1%)で、そのうちの9種類はくも膜下出血と有意な関連(5種類はリスク増加、4種類はリスク低下)を示した。薬剤を使用しなかった場合と比べて、「現在」の使用者である場合にくも膜下出血のリスクが有意に低下することが示された薬剤は、以下の4種類である。
・高血圧薬のリシノプリル(37%のリスク低下)・コレステロール低下薬のシンバスタチン(22%のリスク低下)・糖尿病治療薬のメトホルミン(42%のリスク低下)・前立腺肥大症治療薬のタムスロシン(45%のリスク低下)
リスク増加が認められた薬剤は……
一方、同じ条件下でリスク増加が認められたのは、抗凝固薬のワーファリン、抗うつ薬(SNRI〔セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬〕)のベンラファキシン、精神神経用薬のプロクロルペラジン、鎮痛薬のココダモールの4種類であった。
Kanning氏は、「くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤に対する現行の外科的治療では、後遺症や死亡のリスクが潜在的なベネフィットを上回ることが多いため、非侵襲的な薬剤で脳動脈瘤の破裂を防ぐことは非常に有益だ」とユトレヒト大学のニュースリリースの中で話している。
ただし研究グループは、本研究結果は、これらの薬剤と脳卒中との関連を示したに過ぎない点を強調している。Kanning氏は、「この研究で明らかになった関連性を調査し、これらの薬剤がくも膜下出血リスクを低下させるのに有効であるのかどうかを明らかにするためには、さらなる研究が必要だ。この研究はまた、くも膜下出血の新たなリスク因子を特定するのにも役立ち、脳動脈瘤を管理する新たな治療法につながる可能性も秘めている」と述べている。
(HealthDay News 2024年6月6日)
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